一県一医大構想

一県一医大構想

一県一医大構想とは、1973年に閣議決定された「経済社会基本計画」に盛り込まれた、各県に一つずつ医科大学（医学部）を設置することを目指した構想です。当時の日本では、医師不足が深刻化しており、特に地方での医療体制の整備が急務となっていました。この構想は、そうした状況を打開するために、医学部が存在しない県に新たに医科大学を設置することで、医師の地域偏在を解消し、全国的な医療水準の向上を図ることを目的としていました。

背景

第二次世界大戦前まで、医師の養成は旧制大学と旧制医学専門学校で行われていました。しかし、1949年の学制改革によって、医師の養成は新制大学医学部に一本化されました。その後、長らく医学部数や入学定員に大きな変化はありませんでした。1961年の国民皆保険制度の確立により医療需要が増大し、医師不足が問題視され始め、1969年には入学定員は4,040人にまで拡大されました。しかし、この時点でも医師不足は解消されませんでした。

1970年には、秋田大学に初の新設国立大学医学部が設置されたことをきっかけに、地方の県から国立大学医学部設置の要望が相次ぎました。厚生省は1970年7月、人口10万人に対する医師数を150人と目標を定め、1985年までに達成するには医学部の入学定員を6,000人まで引き上げる必要があると提唱しました。これを受け文部省は、1971年12月に医科大学設置調査会報告で、医科大学が存在しない地域への国立医科大学（医学部）設置を提言しました。しかし、この段階では全ての無医大県への設置までは踏み込んではいませんでした。

構想の具体化

田中角栄内閣は、日本列島改造論を掲げ、地方の医療体制の充実にも力を入れていました。1972年11月には、自民党文教部会が「無医大13県（山形県・愛媛県を含める場合15県）」に国立大学を中心とした医科大学（医学部）の増設を推進することを発表しました。その目標として、昭和48年度から昭和51年度までの間に計15校の新設を行い、入学定員を8,020人まで拡充することを掲げました。また、沖縄県については琉球大学に医学部を設置することを目標としました。この構想が具体化し、一県一医大構想として政府の正式な政策となったのです。

構想の実現

一県一医大構想に基づき、1973年から1979年までの7年間で、旭川医科大学、山形大学医学部、愛媛大学医学部、筑波大学医学専門学群、浜松医科大学、宮崎医科大学、滋賀医科大学、富山医科薬科大学、島根医科大学、高知医科大学、佐賀医科大学、大分医科大学、福井医科大学、山梨医科大学、香川医科大学、琉球大学医学部と、計16校の国立医科大学（医学部）が新設されました。この結果、全国の医学部数は同時期に認可された私立大学を含め80校、入学定員は既存学部の入学定員増を含め8,280人となりました。

当初、医学部は既存の国立大学に増設する形で行われましたが、文部省は新設医学部の学生が既存大学の学生運動に影響されることを懸念し、筑波大学のように、単科大学として設置を進めました。しかしその後、2004年の国立大学法人化にあたり、文部科学省はこれらの医科大学と地元国立大学との統合を推進し、旭川医科大学・浜松医科大学・滋賀医科大学以外の医科大学は同一県内の国立大学と統合され、統合された国立大学の医学部となりました。

一県一医大構想に基づき設立された医科大学・医学部

旭川医科大学
山形大学医学部
愛媛大学医学部
筑波大学医学専門学群（現：医学群）
浜松医科大学
宮崎医科大学（現：宮崎大学医学部）
滋賀医科大学
富山医科薬科大学（現：富山大学医学部）
島根医科大学（現：島根大学医学部）
高知医科大学（現：高知大学医学部）
佐賀医科大学（現：佐賀大学医学部）
大分医科大学（現：大分大学医学部）
福井医科大学（現：福井大学医学部）
山梨医科大学（現：山梨大学医学部）
香川医科大学（現：香川大学医学部）
琉球大学医学部

影響

一県一医大構想は、医師不足の解消に一定の貢献を果たしました。しかし、医師の地域偏在は依然として課題として残っており、医師の養成だけでなく、医療体制全体の改革が求められています。また、大学の統合により、各大学の個性が失われたという意見もあります。

関連事項

日本の医療
医科大学
* 田中角栄

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