一言主

一言主（ひとことぬし）について

一言主（ひとことぬし）は、日本の古代神話に登場する神であり、特に『古事記』においてその名が知られています。この神は、460年（雄略天皇4年）の鹿狩りの際に奇妙な出会いをしたことから、神としての存在が明らかになります。雄略天皇が葛城山で鹿を狩っていると、彼と同じような服装をした神秘的な一行を目撃します。天皇がその行動を問うと、「吾は悪事も善事も一言で表現する神、名は葛城の一言主の大神」と名乗ります。このような自らの能力をしっかりと認識している姿勢に、天皇は恐れを抱き、弓矢や衣服を献上します。すると、一言主神はそれを受け入れ、天皇の一行を見送ります。

また、720年に書かれた『日本書紀』では、出会いの場面は似ていますが、一言主が「現人の神」と名乗り、天皇と共に狩りを楽しむ場面が描かれています。ここでは、彼の存在が天皇と対等なものとして描かれ、時代の変化を感じ取ることができます。

その後、797年の『続日本紀』では、一言主の地位の変化が見受けられます。高鴨神としての名で登場し、天皇と獲物を争った結果、天皇の怒りに触れ土佐国に流されます。これは、彼を祀る賀茂朝臣氏の地位の低下と関連していると考えられています。

さらに822年に書かれた『日本霊異記』では、一言主が役行者に使役される立場になっており、彼の地位が低下している様子が鮮明に描かれます。この物語では、役行者が一言主を呪法で縛り、その呪縛が解けぬままの状態であるため、一言主は不満を持ち、朝廷に讒言をしたとされています。

また、演劇の能では『葛城』という演目があり、一言主が女神として表現されています。このように時間の流れと共に変化する彼の姿は、神の信仰がどのように形成されていったのかを物語っています。

信仰の中心地

奈良県御所市に位置する葛城一言主神社は、この神を奉る全国の一言主神社の総本社として知られています。地元では「いちごんさん」と親しまれ、一言の願いを叶えてくれる神として信仰されています。この神社は「無言まいり」の神としても有名で、特別な祈願を行う人々が多く訪れる場所となっています。また、土佐国にある土佐神社も一言主を祀っており、一宮として重要な役割を果たしていますが、こちらでは神の名が異なる見解も存在します。

一言主は、その名の類似から大国主命の子である事代主神と同一視されることがあり、彼に関連する様々な伝承が存在します。これにより、一言主という神は日本の宗教的なベースに深く根付いていることが分かります。彼に関する神話や伝説は、今日でも多くの人々に引き継がれています。

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