七尋女房

七尋女房：巨大な女性の妖怪、その正体とは？

七尋女房（ななひろにょうぼう）または七尋女（ななひろおんな）、七丈女(ななたけおんな)は、島根県東部（出雲地方、隠岐地方）、鳥取県中西部（伯耆地方）に伝わる妖怪です。名前の由来となっている『尋』は、長さの単位。七尋女房は、その名のとおり、身長もしくは首が約12.6メートルにも及ぶ巨大な女性の妖怪として知られ、地域によって様々な伝承が伝えられています。

隠岐諸島の伝承

島根県隠岐郡海士町では、七尋女房が山道を行く人々に様々な怪異を及ぼしたと伝えられています。織田信長の時代、馬に乗っていた男が石を投げつけられ、その男が刀を抜いて向かうと、巨大な七尋女房が現れたという伝説が残っています。男が斬りつけると、七尋女房は石と化したとされています。この伝説にまつわる刀と馬具は、海士町西地区中畑の家宝として伝わっていたとされます。また、海士町日ノ津の山道にある奇岩「女房ヶ石」（高さ6メートル、幅3メートル）も、七尋女房が石化した姿だと伝えられています。さらに、この奇岩は、現在も少しずつ大きくなっているとされています。海士町では七尋女房を「七尋女婆」と呼ぶ場合もあり、庄屋が石仏道を進んでいると、髪を振り乱した七尋女婆が現れ、刀で斬りつけたところ消え去り、そばの石仏の首がなくなっていたという伝承も存在します。

島根県東部・鳥取県の伝承

島根町（現・松江市）浜地区では、境の山から海岸の島にまたがって現れ、長い髪を垂らし、黒い歯をむき出しにして道行く人に笑いかけたと伝えられています。安来市では、たいへん美しい七尋女房が、7尋もの長い衣を引きずりながら物乞いしていたという伝承があり、本田藪付近の「乙御前の塚」は、七尋女房にまつわるものだとされています。

鳥取県東伯郡赤碕町（現・琴浦町）梅田では、青白い顔に長い髪を垂らし、悲しげな声で「小豆三升に米三合、御れい様には米がない」と歌いながら米を研いでいた、あるいは小豆を研いでいたという伝承が残っています。鳥取の州川崎では「七尋女」と呼ばれ、桜の古木の下に、首が7尋も伸びる妖怪が現れたと伝えられています。戦国時代の伝説では、おみさという女性が男性と愛し合ったものの、男性には婚約者がいたため悲嘆して川に身を投じ、蛇身の淵の主となったとされています。しかし、洪水で住処が埋まったため陸に上がり、カシの木の姿に変身したと言われています。これが日野郡江府町にある県指定天然記念物「七色樫」であり、七尋女の正体はおみさではないかという噂もあります。

明治時代の伝承と類似の妖怪

明治時代になっても、七尋女房の目撃談はありました。島根町立加賀小学校（現・廃校）前の川で遊んでいた子供の前丈1メートルほどの女が現れ、「あはは」と笑うと七尋女房と化したという話が残されています。

七尋女房と類似した妖怪に、江戸時代の奇談集『三州奇談』に登場する「長面妖女」がいます。これは顔が約3メートルもある大女で、加賀国大聖寺（現・石川県加賀市）で目撃されたとされています。

まとめ

七尋女房は、地域によって姿形や行動、そしてその正体に関する様々な伝承が存在する謎多き妖怪です。巨大な体躯と、地域特有の伝承は、人々の想像力を掻き立て、今もなお語り継がれています。その存在は、人々の心に深く根付いた、日本の妖怪文化の一端を垣間見せてくれます。これらの伝承は、人々の生活や自然環境、歴史的出来事などが深く関わっていると考えられ、今後の研究も待たれるところです。

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