万事円満

『万事円満』（原題：Oh, Kay!）は、1928年に公開されたサイレント映画です。プロデューサーはジョン・マコーミック、配給はファースト・ナショナル映画、監督はマーヴィン・ルロイという布陣で、主演はマコーミックの妻であるコリーン・ムーアが務めました。この作品は、ブロードウェイで成功を収めた同名ミュージカル『オー・ケイ (Oh, Kay!)』を原作としています。

映画の物語は、結婚式前夜にスループで逃亡したイギリス貴族の令嬢ケイ（コリーン・ムーア）から始まります。嵐に遭い、密輸船に救助された彼女はアメリカへ辿り着き、偶然出会ったジミー・ウィンター（ローレンス・グレイ）の屋敷に身を隠します。ジミーは翌日結婚式を控えており、ケイは彼に一晩だけ妻を装うよう頼み込みます。そこに現れる捜査官ジャンセンや、密輸品を隠匿する密輸業者ショーティー（フォード・スターリング）など、個性豊かな登場人物たちが物語を彩ります。ケイとジミー、そしてショーティーの３人は、次第に危険な密輸事件に巻き込まれていくのです。

『万事円満』の制作背景には、コリーン・ムーアと夫ジョン・マコーミック、そして監督のマーヴィン・ルロイの複雑な関係が絡み合っています。コリーンはミュージカルコメディで成功を収めていましたが、1927年の作品『When Irish Eyes are Smiling』の撮影中に、夫の飲酒癖が原因で映画会社を解雇されてしまいます。この作品は後に『恋の走馬燈』として完成しますが、『万事円満』は、コリーンが解雇後、友人でコメディを得意とするルロイ監督に依頼した、いわば復活をかけた作品だったのです。

当初『When Irish Eyes are Smiling』の監督を務める予定だったルロイでしたが、マコーミックの映画会社とのトラブルによって実現せず、コリーンはリチャード・A・ローランドに掛け合い、ルロイに監督を依頼。こうして、ルロイ監督のもと、コリーン・ムーアは『万事円満』で再び輝きを放ちました。興味深いことに、サンタカタリナ島での撮影中、コリーンは映画館でゲイリー・クーパーを見つけ、夫に『ライラック・タイム』の主演を推薦したという逸話も残っています。

『万事円満』は、原作ミュージカルの軽快な雰囲気を保ちつつ、コリーン・ムーアの個性を活かした映画となっています。ファースト・ナショナル映画がワーナー・ブラザース傘下になる直前に公開された、この作品は、サイレント映画時代の貴重な作品として、現在もオランダのアイ・フィルム・インスティテュートにフィルムが保管され、後世に語り継がれています。キャストには、コリーン・ムーアの他に、ローレンス・グレイ、フォード・スターリング、クロード・ギリングウェーター、ジュラン・ジョンストンなど、当時の実力派俳優が名を連ねています。

この映画は、華やかな舞台裏と、危険な陰謀が交錯する、見どころ満載の物語です。コリーン・ムーアの演技、そしてサイレント映画特有の表現技法も見所の一つと言えるでしょう。現在でも、そのフィルムは大切に保管され、多くの映画ファンを魅了し続けています。

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