三人吉三廓初買

歌舞伎演目『三人吉三廓初買』：因果応報の物語と時代背景

『三人吉三廓初買』（さんにんきちさ くるわの はつがい）、通称『三人吉三』は、安政7年（1860年）に江戸市村座で初演された、河竹新七（黙阿弥）作の歌舞伎演目です。世話物、白浪物に分類され、全7幕13場からなる長編作品として知られています。

あらすじ

物語の中心は、お嬢吉三、お坊吉三、和尚吉三という3人の盗賊です。彼らは、百両の金と名刀「庚申丸」を巡り、複雑に絡み合う人間関係の中で、最終的に刺し違えて命を落とします。

物語は、江戸本町の小道具商の手代・十三郎が、安森家で盗まれた短刀を売り、遊郭で夜鷹のおとせと出会うことから始まります。しかし、喧嘩に巻き込まれ、金百両を失ってしまいます。

おとせが落とした百両を拾おうと夜道を歩いていると、お嬢吉三が現れ金を奪い、おとせを川に突き落とします。その後、お坊吉三が現れ争いますが、和尚吉三が仲裁に入り、3人は義兄弟の契りを結びます。

その後、おとせは青菜売りの久兵衛に助けられ、父親・伝吉のもとへ送られます。そこには行方不明だった十三郎がおり、二人は恋仲になりますが、実は兄妹であることが判明します。

さらに、お坊吉三と伝吉・和尚吉三親子の間にも、名刀「庚申丸」を巡る因縁がありました。それを知らずにお坊吉三は伝吉を殺してしまいます。

和尚吉三は、お嬢吉三と坊吉三の逮捕を頼まれ、憐れみから十三郎とおとせを殺し、その首をお上に差し出しますが、発覚して捕まります。お嬢吉三と坊吉三は和尚吉三を救出しますが、最後は三者三様、互いに刺し違えて物語は幕を閉じます。

見どころ

『三人吉三』は、三人の吉三を中心とした複雑な人間関係と、その因果応報が大きな見どころです。特に有名なのは「大川端庚申塚の場」で、お嬢吉三の七五調の独白「厄払い」は歌舞伎の名科白として知られています。

三人の吉三の出会いや、百両と名刀の行方、そして徐々に明らかになる複雑な人間関係は、観客を物語に引き込みます。初演時には、木屋文里と吉原遊女・一恵の悲恋も描かれていましたが、再演以降は省略されるのが一般的です。

時代背景と創作

幕末の動乱期、人々は爛熟した文化と頽廃した世相の中にいました。本作は、そうした時代を反映していると言えるでしょう。登場人物たちの苦悩や悲劇は、単なる白浪物にとどまらず、深刻な人間ドラマとしての一面を見せています。

また、黙阿弥は自身の旧作『網模様燈籠菊桐』（通称『小猿七之助』）や『松竹梅雪曙』（通称『櫓のお七』）の要素を取り入れ、登場人物や筋書きを創作しています。お嬢吉三の設定は、当時伸び悩んでいた三代目岩井粂三郎を売り出すための「当て書き」でもありました。

歴史と評価

初演時は不評でしたが、一部を省略して再演された『三人吉三巴白浪』は大成功を収め、歌舞伎の代表作として現在まで上演され続けています。多くの名優たちが様々な役を演じ、それぞれの解釈で作品に命を吹き込んできました。映画や演劇、漫画など、様々な形で翻案されていることも、この作品の人気を示しています。

この作品は、単なる勧善懲悪の物語ではなく、人間の業や時代の影を映し出した、奥深い魅力を持つ演目と言えるでしょう。

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