三十間堀川

三十間堀川（さんじっけんほりかわ）

かつて東京都中央区に存在した、人工的に掘削された河川、すなわち運河です。現在の京橋川（新京橋出口付近）から南下し、汐留川まで接続していました。その名称は、開削当初の川幅がおよそ三十間（約55メートル）と広かったことに由来しています。現在の行政区分でいうと、中央通りと昭和通りの間に位置していました。

歴史

三十間堀川の歴史は、江戸幕府が江戸の都市機能、特に水上交通網を整備する目的で、慶長17年（1612年）に始まります。徳川家康の命を受けた西国諸大名に工事が請け負わされ、当時、江戸前島の東端にあたる海岸線を利用して掘削されました。この水路は、舟運の拠点として非常に重要であり、その両岸には多くの荷揚げ場である河岸地が設けられました。近世から近代にかけて、物資を運ぶ商船や人々の往来に利用される屋形船などが行き交い、水上交通の要衝としてたいへん賑わいました。現存する江戸全体の古地図の中でも最初期のものとされる『武州豊嶋郡江戸庄図』（別名・寛永江戸図、1632年制作）にも三十間堀川は描かれており、その東側には尾張徳川家や紀伊徳川家といった有力大名の蔵屋敷をはじめ、京極家、加藤家、松平家などの大名屋敷が広大に立ち並んでいました。また、西豊玉河岸や東豊玉河岸といった名称の河岸地が存在しました。

開削当初、三十間堀川は楓川、桜川、京橋川という三つの河川の合流地点から分岐しており、その様子はさながら河川が集まる「辻」のようでした。この地点には、弾正橋、白魚橋、真福寺橋という三つの橋がコの字形に架けられており、その独特の景観は江戸名所図会にも「三ツ橋」として紹介されるほどでした。

しかし、時間の経過とともに変化も訪れます。文政11年（1828年）には、両岸の河岸地が拡幅されたことに伴い、堀幅が十九間に狭められました。さらに明治時代に入ると、都市計画の一環として水路の改修が行われます。明治36年（1903年）には、それまでの楓川・桜川の境界付近にあった分流点が、京橋川寄りの位置へと移されました。この改修により、もともとの水路や白魚河岸は埋め立てられ、真福寺橋も廃橋となりました。これにより、三十間堀川は京橋川に対して鉤型ではなく、船の通行に便利なT字型に合流する形状へと変更されたのです。旧水路の跡地には現在、京橋プラザなどの建物が建っており、当時の面影はほとんど残されていません。

埋立てと現在の痕跡

三十間堀川が完全に姿を消すのは、第二次世界大戦後のことです。戦災で壊滅的な被害を受けた東京の中心地、特に銀座周辺には大量の瓦礫が山積していました。この瓦礫処理を急ぐようGHQ（連合国軍最高司令官総司令部）から東京都に対して強い指示が出された結果、東京都は手近な三十間堀川に残土を投棄して埋め立てることを決定しました。昭和23年（1948年）6月に埋立工事が開始され、翌昭和24年（1949年）7月には完了。これにより、水路としての三十間堀川はこの地上から完全にその姿を消しました。

現在、三十間堀川の存在を直接目にすることはできませんが、その跡地や周辺には往時を偲ばせる痕跡がいくつか残されています。例えば、水谷橋公園やその付近はかつての水路の一部であり、公園の名前にその記憶が留められています。また、水路跡に沿って建てられた細長い形状のビル（例えば銀座ファーストビルなど）も、かつての川筋を示しているかのようです。

東銀座にある晴海通りと昭和通りの交差点は、現在も「三原橋交差点」と呼ばれています。これは、かつてこの三十間堀川に架けられていた「三原橋」に由来する名称です。実際の三原橋は、交差点よりも銀座三越寄りの位置、かつて三原橋地下街があった場所に架かっていました。この付近には、都電の三原橋停留所もあり、交通の要所でした。

かつて架かっていた橋梁

三十間堀川には、北側の京橋川合流地点から南側の汐留川へ向かって、多くの橋が架けられていました（明治17年時点などの情報に基づく）。主要な橋としては以下のようなものがありました。

真福寺橋（旧水路）
水谷橋（新水路）
紀伊國橋
豊玉橋
朝日橋
三原橋
木挽橋
賑橋
出雲橋
八通八橋

これらの橋の名前や存在は、地域の歴史を物語る貴重な手がかりとなっています。

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