三国志 (吉川英治)

三国志の概要

吉川英治による『三国志』は、1939年から1943年にかけて新聞に連載された日本の歴史小説です。中国の明代の小説『三国志演義』を元にしながら、日本の読み手に合うよう大胆にアレンジされています。この作品は日本での三国志関連作品に大きな影響を与え、多くの愛読者を魅了しました。

作者の背景

吉川英治は少年期から三国志にからむ作品を愛読し、特に久保天随訳の『演義三国志』に感銘を受けていました。彼は昭和2年には『江戸三国志』を発表し、三国志への愛着を示しました。吉川が直接三国志を書く決意をしたのは、1937年の日中戦争を背景とした大型取材旅行で、これが執筆のインスピレーションとなりました。彼の卓越した経験が作品の冒頭で描かれる黄河の流れの表現にも活かされています。

連載当時の状況

連載は中外商業新報（現在の日本経済新聞）で始まり、続けて太平洋戦争が勃発しましたが、物語は完結するまで継続されました。特に昭和17年には三度の訪中を果たし、華南地方の取材を行いました。最終的に、作品は昭和18年に連載を終了し、当時の最新の歴史に基づいた物語が提供されました。

小説の構成と内容

『三国志』は全10巻で構成され、各巻は以下のような主要な出来事を取り扱っています：

1. 桃園の巻: 劉備・関羽・張飛の出会いから、董卓の暗殺未遂まで。
2. 群星の巻: 曹操の逃亡から、李傕・郭汜による朝政の壟断まで。
3. 草莽の巻: 献帝の長安脱出から、下邳の戦いまで。
4. 臣道の巻: 呂布の滅亡から、関羽の曹操辞職まで。
5. 孔明の巻: 関羽千里行や隆中対の展開。
6. 赤壁の巻: 東南の風を祈るまでの物語。
7. 望蜀の巻: 赤壁の戦いから、孫夫人の呉への帰還まで。
8. 図南の巻: 曹操の魏公への昇進過程。
9. 出師の巻: 華佗による関羽の治療から始まり、孔明の第一次北伐まで。
10. 五丈原の巻: 初回北伐から孔明の死後の動向。

作品の特徴と影響

吉川は、原作の忠実さよりも、日本の読者に響くようにアレンジを加えています。彼は冒頭の桃園の誓いのエピソードなどを大幅に変更し、登場人物の人間性を強調しました。特に曹操は、単なる敵役ではなく詩人としての魅力が描かれ、他の作品とは異なる深いキャラクターとして構築されています。

また、本作では妖術や魔術といった超自然的な要素を排除し、現実的な展開を重視しました。これにより、歴史的事実に基づく信ぴょう性を高めつつも、エンターテインメント性を維持しています。

吉川の作品はその後も多くの作家に影響を与え、日本の三国志文学の基盤を築きました。漫画やゲーム、映像制作など様々なメディアでもこの作品の影響が見受けられ、特に横山光輝による漫画版は、吉川の『三国志』を基盤にしたものとして広く知られています。

結論

吉川英治の『三国志』は、単なる歴史小説ではなく、日本の文化や感情に寄り添った物語であり、多くの人々に愛され続けています。その影響は今日にまで及び、三国志という題材の魅力をさらに広げる役割を果たしています。

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