三國志III事件

三國志III事件とは

三國志III事件、または三國志III能力値付加事件とは、1992年に光栄（現コーエーテクモゲームス）が発売した人気シミュレーションゲーム『三國志III』のゲームデータ改造ツールを販売した技術評論社を相手に、光栄が著作権侵害を主張して起こした裁判の通称です。

事件の概要

技術評論社が発行した『三國志III非公式ガイドブック』には、「NBDATA」というプログラムを収録したフロッピーディスクが付属していました。このNBDATAを使用すると、『三國志III』に登場する武将の能力パラメータを、通常プレイ時の上限である100を超えて設定することができました。

光栄はこの行為が「ゲームバランスを破壊し、同一性保持権及び翻案権を侵害する」として、技術評論社を東京地方裁判所に提訴しました。

技術評論社の反論

技術評論社側は、以下のように反論しました。

パラメータの上限を100と定めるのは単なるゲームのルールであり、ゲームルールに著作物性は存在しない。
シミュレーションゲームでは、プレイヤーの裁量によってゲーム展開が大きく変化するため、その全てが著作者の想定範囲内とは言えない。

一審判決

1995年7月14日、東京地方裁判所は技術評論社側の主張を全面的に認め、光栄側の敗訴判決を下しました。光栄は判決を不服として東京高等裁判所に控訴しました。

二審判決

東京高裁への控訴に際し、光栄は一審の主張に加え、「本件ゲームソフトは著作権法上の『映画の著作物』に該当し、NBDATAの使用はゲームストーリーの改変に繋がる」という主張を追加しました。これは、過去のパックマン事件で認められた主張を援用したものです。

しかし、1999年3月18日に東京高等裁判所は、以下のように判断し、光栄側の主張を退けました。

『三國志III』は、ユーザーの思考の積み重ねに主眼が置かれており、映像の流れを楽しむことを目的としたものではない。
映像も、連続的なリアルな動きではなく、静止画像が大部分を占めている。
したがって、『三國志III』は映画の著作物には該当しない。

最高裁判決

光栄は最高裁判所に上告しましたが、2001年12月に最高裁第二小法廷は上告を受理せず、二審・東京高裁判決が確定しました。

判決の影響と著作権法の課題

本判決以降、個人が非公開領域（改変結果を不特定多数に公開しない）で行うチート行為は合法であるという説が有力となりました。しかし、日本の著作権法は、ベルヌ条約で求められる「著作者の名誉や声望を害する形での改変」以上の広範な禁止権限を著作者に認めており、海外では合法とされる行為でも、日本では違法と判断される可能性があるという問題点を抱えています。

このため、著作権法を所管する文化庁は、2005年より著作者人格権の見直しに関する調査・研究を進めています。

パワーアップキットの登場

光栄が『三國志IV』以降、パワーアップキット（PK）を発売するようになったのは、この事件が背景にあるという見方もあります。PKにはゲームの編集機能が搭載されており、ユーザーがゲームデータを改変できるようになりました。しかし、PK発売後も、PK版にはない機能を持つデータ改造ツールが非公式に製作されています。

また、光栄は2005年にウエストサイド社が販売していた自社作品のチートツールに対し警告を行い、オンラインゲームだけでなく、全てのチートツールの販売停止に追い込みました。

まとめ

三國志III事件は、ゲームのデータ改造を巡る著作権の問題を浮き彫りにした重要な裁判です。この事件をきっかけに、著作権法の見直しやゲームにおけるチート行為の合法性などが議論されるようになりました。現在も、ゲームのデータ改造やチート行為に関する議論は続いており、この判決がその根底にあることは間違いありません。

書誌情報

三國志III 非公式ガイドブック - 1993年2月初版 ISBN 4874085431

関連項目

ときめきメモリアルメモリーカード事件

外部リンク

一審・東京地裁判決
* 二審・東京高裁判決 - ウェイバックマシン（2004年6月24日アーカイブ分）

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