映画の著作物

映画著作物に関する詳細解説

はじめに

映画著作物は、著作権法において、劇場映画やアニメーション、CMなど、動的な映像表現を伴う著作物を指します。他の著作物とは異なる創作・流通過程を持つため、著作権法では特別な規定が設けられています。本稿では、日本の著作権法を中心に、映画著作物の定義、著作者、著作権の帰属、頒布権、保護期間、そしてアメリカ、EU、イギリスにおける制度を解説します。

日本の映画著作権

対象

日本の著作権法では、映画それ自体の明確な定義はありません。しかし、頒布権に関する規定など、劇場用映画作品を想定した規定が多数存在します。テレビ番組、アニメ、ビデオグラム、CMなども含まれます。重要なのは、動画であれば全て映画著作物になるわけではない点です。創作性が求められ、監視カメラ映像など、創作性のない動画は著作物自体に該当しません。また、映画著作物として保護されるには、物への固定（録画など）が必要です。生放送は録画されていなければ対象外です。

映画類似の著作物

著作権法は、「映画の効果に類似する視覚的または視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」を映画類似の著作物として含みます。ビデオテープやDVDはもちろん、ゲームソフトも含まれると最高裁判例で確定しています。ただし、静止画が大半で動きの少ないゲームソフトは、映画類似の著作物とは認められない場合があります（三國志III事件の判決など）。

著作者

映画著作物の著作者は「制作、監督、演出、撮影、美術など、全体的形成に創作的に寄与した者」と限定されています。監督などが該当しますが、形式的な監督ではなく、創作面で製作過程を統括した者が著作者となります。職務著作物（会社の命令による制作）の場合は、会社が著作者となります。また、映画で使用された小説、脚本、音楽などの著作者は、映画の著作者とは別です。

著作権の帰属

著作権は原則として創作と同時に著作者に帰属しますが、映画著作物では、著作者が映画製作者と製作参加を約束していれば、映画製作者（映画会社など）に帰属します。これは、映画製作の多人数参加、多額の費用を考慮した規定です。ただし、契約で著作権を譲渡することは可能です。著作権が映画製作者に帰属する場合でも、著作者人格権は監督など著作者に残ります。

頒布権

映画著作物には、他の著作物にはない頒布権があります。これは、複製物を有償・無償に関わらず公衆に譲渡・貸与する権利です。映画産業の慣習を踏まえ、映画会社が上映用フィルムを映画館に譲渡した後も、中古転売などを規制するため設けられました。頒布権は原則として著作者にありますが、著作権が映画製作者に帰属する場合は、映画製作者が有します。映画館での上映は上映権の問題であり、頒布権とは異なります。映画以外の著作物には頒布権に相当する譲渡権がありますが、頒布権の消尽に関する判例により、両者の区別は曖昧になっています。

頒布権の消尽

中古ゲームソフト販売事件では、家庭用ゲームソフトの中古販売が、映画類似の著作物の頒布権侵害にあたるか争われました。最高裁は、公衆に提示することを目的としない複製物の譲渡については、頒布権は消尽すると判断し、中古販売を合法としました。

保護期間

映画著作物の保護期間は、公表後70年です。著作者の死亡時ではなく、公表時を基準とするのは、多数の者が創作に関わるため、著作者の特定が困難なためです。1953年問題とは、この保護期間の起算方法が、他の著作物と比較して保護期間を短くする問題を引き起こしたことに関するものです。旧著作権法の保護期間と比較し、より長い期間が保護されるように改正されました。

著作隣接権との関係

映画には多くの実演家が関与するため、各実演家の著作隣接権（録音・録画権など）を個別に処理すると、二次利用が困難になります。そのため、映画の著作物として録音・録画されたものを二次利用する場合は、原則として実演家の著作隣接権は適用されません（ワンチャンス主義）。ただし、放送以外の二次利用や再放送には、実演家の権利が及ぶ場合があります。

アメリカ、EU、イギリスの映画著作権

アメリカでは、連邦著作権法が映画を著作権の対象としており、集合著作物として扱われることが多いです。EUでは、貸与権指令が映画の著作物を定義し、主たる監督を著作者とみなしています。イギリスでは、映画監督に著作者人格権が認められますが、職務著作制度により、企業所属の監督は個人として権利を認められない場合があります。EU離脱後も、著作権は維持されています。

まとめ

映画著作権は、複雑で多様な制度です。本稿では主要な点を解説しましたが、具体的な事例では専門家の助言が必要となる場合もあります。

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