三好達

三好達（みよしとおる）は、1927年（昭和2年）10月31日に生まれ、2023年（令和5年）3月6日に逝去した日本の裁判官であり、政治活動家としても知られる人物です。最高裁判所長官を務めたほか、退官後は法曹界や複数の保守系団体で要職を歴任しました。位階は従二位。

生い立ちと初期のキャリア

東京府で育った三好は、日本中学校を経て海軍兵学校に入学（第75期）。在学中に終戦を迎え、リベラルな教育で知られた井上成美校長の薫陶を受けた最後の卒業生の一人となりました。その後、旧制東京高等学校を経て、1953年（昭和28年）に東京大学法学部を卒業しました。1952年に24歳で司法試験に合格し、司法修習第7期を経て、1955年に裁判官として任官。キャリアの初期には東京地方裁判所をはじめ、各地の裁判所で勤務し、裁判官として現場での法廷実務と、司法行政の双方において経験を積みました。

最高裁判事への道

長年の実務経験を経て、1987年には最高裁判所の首席調査官に就任し、1990年まで務めました。1991年には東京高等裁判所の長官となり、翌1992年には最高裁判所の判事に任命されました。1993年 7月18日に行われた最高裁判所裁判官国民審査では、対象となった9人の裁判官の中で最も罷免を「可」とする票の割合が低い結果となり、高い信任を得ました。

最高裁判所長官として

1995年、三好は第13代最高裁判所長官に就任しました。就任会見では、「身の引き締まる思い」と重責への謙虚な姿勢を示すとともに、「裁判官は法と良心に基づき裁判を行うが、組織の一員であることも忘れてはならない」と組織内での協調性の重要性にも言及しました。また、担当する小法廷が「行政寄り」と批判された際には、「常に中立公正な判断をしてきた」と反論しました。

長官在任中、三好は司法行政における重要な課題に取り組みました。特に法曹人口の増加問題に関しては、法務省や日本弁護士連合会との協議を重ね、司法試験合格者数の増加や司法修習期間の短縮といった司法改革の方向性を示すことに尽力しました。さらに、裁判の効率化を目指し、全国の裁判官へのパソコン配備を推進し、短期間でこれを完了させました。一方で、裁判所速記官の新規養成停止を決定するなど、組織運営に関わる決断も行いました。

主な担当事件と思想

裁判官としての三好は、立法や行政の活動に対する司法の介入には慎重であるべきという姿勢を示しました。長官就任時にも、「立法には立法裁量、行政には行政裁量があり、その範囲内のことには司法は介入すべきではない」と述べています。

担当した多くの重要事件の中でも、いくつかの判決や意見が注目されています。

東京高裁時代の東京灯油訴訟では、請求を棄却しつつも闇カルテルの存在を認定しました。
法廷メモ訴訟（レペタ訴訟）においては、首席調査官として関与しました。
厚木基地訴訟では、飛行差し止めは認めませんでしたが、住民被害の賠償を認めなかった高裁判決を破棄差し戻しました。
近畿合同税理士会訴訟では、税理士会の政治活動や献金は税理士の自由侵害にあたり、税理士会の権利能力の範囲を超えるという補足意見を述べました。
栃木県情報公開条例に基づく開示請求事件では、全面開示を命じた高裁判決の一部を審理不十分として破棄差し戻しました。
ロッキード事件では、丸紅会長の行為は総理の職務に関連する行為の対価であったという意見を表明しました。
愛媛県靖国神社玉串料訴訟では、多数意見が違憲とする中で、公費支出には宗教的意義がなく合憲とする反対意見を表明しましたが、この意見は憲法学者の芦部信喜から、心情を吐露したもので憲法論としては評価しがたいと評されました。
1992年参院選の一票の格差訴訟では、最高裁大法廷の裁判長として、参議院選挙に関して初の違憲状態判決を言い渡しました。
* 沖縄代理署名訴訟では、最高裁大法廷の裁判長として、迅速な審理で判決を下しました。

退官後の活動と晩年

1997年10月、定年により最高裁判所長官を退官しました。退官後は法曹会の会長を務めたほか、靖国神社の崇敬者総代も務めました。1999年には長年の功績に対し、勲一等旭日大綬章が授与されました。

法曹界以外では、保守系の活動にも深く関わりました。2001年12月には日本会議の会長に就任し、日本の伝統や文化を守る活動を展開しました。また、同年5月には日本会議が主導して再設立された「皇室の伝統を守る国民の会」の会長にも就任しました。2014年には、憲法改正を目指す「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の設立総会で、田久保忠衛、櫻井よしことともに共同代表に就任しました。2015年6月に日本会議会長を退任しました。

人物像と著作

三好は、江戸時代の儒学者である佐藤一斎の「心は現在なるを要す」（いま担当している仕事に全力を尽くすこと）という言葉をモットーとしており、しばしば講演などで引用しました。同僚からは「豪快に見えるがきちょうめんな一面もある」と評されています。私生活では、妻に先立たれた後は、自ら買い物や料理をするなど、身の回りのことを自分で行っていたといいます。

単著として『国民の覚醒を希う』（明成社、2017年）を出版しています。また、最高裁判所創立50周年を迎えた際のNHKアナウンサー山根基世との対談『最高裁判所長官インタビュー』も残されています。

2023年3月6日、心不全のため東京都内の病院で死去しました。享年95。死没日付をもって従二位に叙されました。

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