三宅定雄

三宅定雄（みやけさだお）氏は、1938年 5月27日に生まれ、2021年8月1日に83歳でその生涯を閉じた、毎日放送（MBS）の元アナウンサーです。

東京に生まれ育った三宅氏は、早稲田実業学校高等部で硬式野球部に所属。控え投手という立場ながらも、後にプロ野球界で名を馳せる醍醐猛夫、徳武定之といった先輩や、2年後輩の王貞治氏らと白球を追いかけました。早実卒業後は立教大学社会学部へ進み、ここではラグビー部に籍を置くなど、学生時代からスポーツに深く関わっていました。

大学を卒業した1961年、アナウンサーとして毎日放送に入社。MBS入りしてからは、特にスポーツ中継の分野で才能を発揮します。プロ野球（NPB）をはじめ、春の選抜高校野球大会、冬の全国高校ラグビー大会など、数々の熱戦をマイクを通して全国に伝えていきました。

若手時代から重要な中継を任されることもありました。入社4年目の1964年、大阪を舞台に阪神タイガースと南海ホークスが激突した日本シリーズ、通称「御堂筋シリーズ」。この第5戦のラジオ中継で実況を担当するという大役を担います。これは、同時期に開催された東京オリンピックに先輩スポーツアナウンサーたちが派遣されたことによるものでしたが、この経験がその後の実況人生の礎となったと言えるでしょう。昭和の高校野球史やNPBの歴史を彩る多くの試合で、彼の声が記録に残っています。

三宅氏の実況スタイルは、「選手に常に寄り添う優しい視点を持ちながらも、時に感情をあらわにして熱く、時には脱線する」というユニークなもので、多くのリスナーや視聴者を魅了しました。学生時代にラジオ番組の演出家を志していたという背景も、その個性的な語り口に影響を与えていたのかもしれません。

1980年代に入ると、阪神タイガース戦のラジオ中継で、当時MBSの野球解説者だった板東英二氏との丁々発止のやり取りが大きな話題となりました。このコンビは、ニッポン放送の深澤弘アナウンサーと江本孟紀氏のコンビと並んで、東西の人気実況・解説コンビとして称されるほどでした。三宅氏は、2歳年上の深澤氏に対して深い尊敬の念を抱いていたと言われています。

しかし、三宅氏には長年温めてきた夢がありました。それは飲食店の経営です。その思いが募り、1988年に毎日放送を退社することを決断します。当時の部下であった伊東正治アナウンサーによれば、「3月に入ってから突然、三宅さんから退社を聞かされた」とのことで、その決断は周囲にとって寝耳に水だったようです。伊東氏は、BBC（英国放送協会）日本語放送サービスへの出向を控えていながら、三宅氏が担当する予定だった選抜高校野球中継を急遽引き継ぐことになります。公式な退職日は3月31日でしたが、実際には4月5日に行われた選抜高校野球大会決勝戦のテレビ中継実況が、MBSアナウンサーとしての最後の仕事となりました。

退社後、三宅氏は念願の飲食店を実際に経営しましたが、後に店を閉めることとなり、その後は様々な職を転々としたと言われています。その間、1990年代前半には、東海ラジオのプロ野球中継『東海ラジオガッツナイター』で実況アナウンサーが不足していたことから、本数契約という形で一時的にNPBの実況の場に復帰。また、住之江競艇で場内実況やイベント司会を務めるなど、アナウンスや話術に関わる仕事に携わる機会もありました。

スポーツ実況アナウンサーとして、三宅氏の声は多くの歴史的な瞬間に立ち会っています。

1978年 7月25日オールスターゲーム第3戦（後楽園球場）
NRN系列局によるリレー中継で、1回の攻防を担当。この回裏に、ホームチームの「3番・三塁」で出場していた阪神の掛布雅之選手が、3打席連続本塁打の1本目を放った瞬間を伝えています。
1979年 11月4日日本シリーズ第7戦（大阪球場）
近鉄バファローズ対広島東洋カープの緊迫した最終戦。この試合の終盤、伝説として語り継がれる「江夏の21球」の一部始終を実況。シリーズ開幕前から体調が万全ではなかったにもかかわらず、その場に立ち会った三宅氏の実況音声は、後のドキュメンタリー番組などで貴重な資料として度々使用されています。
1985年 10月16日ヤクルトスワローズ対阪神タイガース戦（神宮球場）
阪神タイガースが21年ぶりのリーグ優勝を決めた歴史的な一戦を、関西ローカル向けに中継。前年まで阪神の監督を務めた安藤統男氏が解説を務めました。優勝決定の瞬間を捉えた三宅氏の実況音声は、1985年の阪神の活躍を振り返る番組などで繰り返し使われています。
1978年 3月30日選抜高校野球1回戦（阪神甲子園球場）
前橋高校の松本稔投手が、甲子園の全国大会史上初の完全試合を達成した試合。試合開始から最後まで、この快挙の一部始終をマイクで伝えました。三宅氏がMBSを退社して10年ほど経った1998年頃、『あどりぶランド』でこの試合を振り返る企画が放送された際、松本投手の完全試合達成の瞬間を伝える三宅氏の実況音声が使用されました。企画を担当した伊東正治氏は、三宅氏の退社時に記念番組が制作されなかったことを知り、「三宅さんのことを思い出してもらいたい」という思いから、実況音源をテレビで流すことを目的にこの企画を立てたことを後に語っています。

2021年8月1日、三宅氏は永眠されました。古巣であるMBSラジオ（当時は毎日放送からラジオ事業を承継）では、8月25日放送の『子守康範朝からてんコモリ!』で訃報が伝えられました。さらに、11月29日には『MBSベースボールパーク番外編』で追悼特集が生放送され、三宅氏と縁の深かった人々が集まりました。スポーツアナウンサーとしての「弟子」にあたる伊東正治氏、美藤啓文氏、赤木誠氏や、阪神戦中継でコンビを組んだ安藤統男氏、太田幸司氏といった解説者たちが、三宅氏の功績や温かい人柄について語り、故人を偲びました。

三宅定雄氏は、その個性的な実況スタイルと、数々の歴史的なスポーツシーンを伝えた功績をもって、関西、そして日本のスポーツ実況史に確かな足跡を残しました。彼の声は、今なお多くの人々の記憶や記録の中に生き続けています。

関連人物
深澤弘、井上光央、水谷勝海、城野昭、結城哲郎、伊東正治、美藤啓文、板東英二、安藤統男、赤木誠、森本栄浩、伊藤史隆

主な出演番組（MBSアナウンサー時代）
プロ野球中継（ラジオ・テレビ）
選抜高等学校野球大会中継（ラジオ・テレビ）
MBSニュース（テレビ）
あどりぶランド（テレビ）
毎日ニュース（ラジオ）
毎日放送競馬中継（ラジオ）

主な出演番組（毎日放送退社後）
* 東海ラジオガッツナイター（ラジオ）

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