三方・花折断層帯

三方・花折断層帯は、若狭湾から福井県、滋賀県、京都府を経て宇治市に至る活断層帯です。この断層帯は、複数の断層が複雑に組み合わさって構成されており、過去には大規模な地震を引き起こしたと考えられています。本稿では、この断層帯の構造や活動履歴、想定される地震について詳しく解説します。

断層の形状と活動

三方断層帯

三方断層帯は、若狭湾の美浜湾内を北端とし、三方五湖、福井県美浜町を経由して、若狭町熊川を南端とする、長さ約26kmの南北に延びる断層帯です。東側（野坂山地側）が隆起する逆断層帯であり、若狭湾内のA断層系、陸域の日向断層、三方断層、倉見峠断層で構成されます。これらの断層は、雁行または並走する関係にあります。断層面の傾斜は高角と推定されていますが、具体的な値は不明です。横ずれ成分は確認されていません。

後期更新世以降の平均上下変位速度は0.8m/千年程度と推定され、活動度はB級上位またはA級下位とされています。北部では変位速度が比較的大きく、南部では小さいと推定されています。

歴史記録によると、1662年の寛文近江・若狭地震の際に、三方五湖周辺で3〜5m程度の隆起が発生したと推定されています。この地殻変動は三方断層帯の活動によるものと考えられており、最新の活動時期は1662年です。活動した場合には、福井県若狭町、美浜町、敦賀市などで最大震度7程度の揺れが発生すると予測されています。

熊川断層

熊川断層は、福井県若狭町日笠を西端とし、同町熊川を経由して、滋賀県高島市の水坂峠付近を東端とする、長さ約12kmの東北東から西南西に延びる左横ずれ断層です。三方断層帯と花折断層を切るように分布しています。断層面の傾斜はほぼ垂直と推定されていますが、具体的な活動度や最新の活動時期は不明です。

花折断層帯

花折断層帯は、右横ずれ断層である花折断層と、その南延長上に存在する逆断層帯で構成されます。活動セグメントは、北部、中部、南部に分けられ、北部と中部が花折断層、南部が花折断層の南延長上に存在する逆断層帯です。

花折断層

花折断層は、滋賀県高島市の水坂峠付近を北端とし、朽木谷、花折峠、大原、八瀬などを経由して、京都市左京区の吉田山付近を南端とする、長さ約46kmの北北東から南南西に延びる右横ずれ断層です。花折断層帯の北部と中部を占めます。全体的に谷地形が明瞭なリニアメントとして判読でき、花折峠付近を境に、北部で西側隆起、南部で東側隆起の逆断層成分を含んでいます。断層面の傾斜はほぼ垂直と推定されています。ほぼ国道367号が沿っています。

右横ずれが主体と考えられますが、具体的な平均右横ずれ変位速度は不明です。断層運動による河谷の屈曲量や、最新活動の単位変位量と活動間隔から、活動度はB級上位またはA級下位程度と推定されています。

1996年に行われたトレンチ調査から、滋賀県高島市今津町途中谷における最新活動時期は15世紀以後-17世紀以前と推定されています。一方、2000年に行われたトレンチ調査では、京都府左京区修学院及び吉田での最新活動時期は2,000-2,500年前と推定されています。

1662年の寛文近江・若狭地震では、現在の滋賀県及び京都府を中心とする地域で大きな被害が発生しました。この地震は三方断層帯の活動によるものと推定されていますが、花折断層北部の活動年代と地震の被害状況から、花折断層北部も活動した可能性が高いとされています。しかし、大原以南では被害の記録がないことから、この地震では活動しなかったと推定されています。

花折断層の最新活動時期は、北部が1662年、南部が2,000-2,500年前と推定されます。花折峠付近で断層がやや屈曲していることから、ここを北部と南部のセグメント境界と推定しています。単位右横ずれ変位量は北部・南部ともに2-5m程度と推定されており、平均活動間隔は北部では不明、南部では4,200 - 6,500年と推定されています。花折断層北部が活動した場合は、滋賀県高島市、大津市などで最大震度6強程度の揺れが、南部が活動した場合は京都市左京区などで最大震度7程度の揺れが想定されます。

花折断層帯南部

花折断層帯南部は、花折断層の南延長上に存在する東側隆起の逆断層帯です。東山を背斜とする鹿ヶ谷断層・桃山断層と、花山-勧修寺断層、音羽山・醍醐山を背斜とする黄檗断層群に大別されます。

桃山断層〜鹿ヶ谷断層

鹿ヶ谷断層と桃山断層は、京都盆地の東縁に沿って分布する南北に延びる東側隆起の逆断層です。横ずれ成分は確認されていません。鹿ヶ谷断層は、京都市左京区の瓜生山南西麓を北端とし、銀閣寺、南禅寺などを経由して、蹴上付近を南端とする長さ約3kmの断層です。桃山断層は、京都市東山区の粟田神社付近を北端とし、祇園、伏見稲荷などを経由して、京都市伏見区の観月橋付近を南端とする長さ約9kmの断層です。

花山-勧修寺断層は、山科盆地の西縁に沿って分布しており、九条山から花山、勧修寺などを経由し、醍醐付近を南端とする長さ約6kmの西側隆起の逆断層です。

桃山断層の傾斜は、深さ200m以浅では50°程度とされ、最近2万年間の平均上下変位速度は約0.3m/千年と推定され、活動度はB級とされています。これらの断層の具体的な最新活動時期、活動間隔、単位変位量は不明です。桃山断層から鹿ヶ谷断層が活動した場合は、京都市東山区、伏見区、山科区などで最大震度7程度の揺れが想定されます。

黄檗断層群

黄檗断層群は、山科盆地の東縁に沿って分布しており、逢坂山付近を北端とし、醍醐、黄檗などを経由して、宇治東IC付近を南端とする長さ約12kmの北北東から南南西に延びる東側隆起の逆断層群です。横ずれ成分は確認されていません。桃山断層とは約5km程度の距離で並走しています。構成される断層は、小野-醍醐断層、御蔵山断層、木幡断層、南山断層、菟道断層です。断層面の傾斜は、西側の断層ほど低角と推定されており、深さ100-300m以浅では、おおむね25-55°と推定されています。

本断層群の具体的な平均変位速度、最新活動時期、活動間隔、単位変位量は不明です。黄檗断層群が活動した場合は、京都市伏見区などで最大震度7程度の揺れが想定されます。

周辺の断層

三方断層帯の北方延長上には、左横ずれ断層である野坂・集福寺断層帯が分布し、東側には西側隆起の逆断層である耳川断層が分布しています。

三方・花折断層帯の東側には、西側隆起の逆断層である琵琶湖西岸断層帯が並走しています。この断層帯の傾斜角は、深さ約3km以浅は40°、約3-5kmまでは35°と推定されており、三方・花折断層帯と琵琶湖西岸断層帯の断層面は地下深部で収束すると推定されます。この場合、両断層帯の関係は、琵琶湖西岸断層帯が逆断層成分、三方・花折断層帯が右横ずれ成分を受け持つすべり分割モデルで説明できると考えられます。しかし、両断層帯は完全に並走しているわけではなく、活動区間の境界も一致しません。地下深部における震源断層の位置や形状については明らかになっていません。過去の活動履歴からは、両断層帯は別々の時期に活動してきたと考えられますが、同時に活動する可能性も否定できません。

花折断層帯の南端付近からは、北西側隆起の逆断層である宇治川断層が分布し、南方延長上には東側隆起の逆断層である奈良盆地東縁断層帯が分布しています。

花折断層帯は京都盆地の東縁に分布していますが、西縁には京都西山断層帯が分布しています。

三方・花折断層帯