三木安正

三木 安正

三木 安正（みき やすまさ、1911年12月3日 - 1984年5月31日）は、昭和期の日本を代表する教育心理学者であり、東京大学名誉教授です。特に幼児期の発達と、知的発達に遅れが見られる子どもたちの教育分野において、研究と実践の両面で指導的な役割を果たしました。

経歴と学問的背景

三木安正は東京に生まれ、旧制姫路高等学校を経て、1936年に東京帝国大学文学部心理学科を卒業しました。卒業後は、愛育研究所や文部省学校教育局に勤務し、実務を通して教育現場への理解を深めます。その後、名古屋大学教授を経て、1954年には母校である東京大学の教育学部教授に就任しました。1972年に東京大学を定年退官した後は名誉教授の称号を得ています。

大学での研究・教育活動に加え、1930年代には岩波書店発行の雑誌『教育』を通じて形成された児童学研究会に参加するなど、若いうちから児童研究の分野で活動を開始していました。

特殊教育への貢献

三木安正の業績の中で特筆すべきは、日本の特殊教育、特に知的発達障害児教育の発展に果たした貢献です。彼は単なる理論家にとどまらず、実践の重要性を強く認識していました。その信念に基づき、全日本特殊教育研究連盟を結成し、特殊教育関係者のネットワーク構築と研究の推進に尽力しました。さらに、知的発達障害のある人々のための教育・福祉施設である旭出学園の創立にも深く関わり、教育実践の場を自ら作り出しました。これは、大学の研究室から現場への橋渡しを積極的に行ったことの証と言えます。

彼の専門領域である幼児教育と知的発達障害児教育は、当時の日本ではまだ発展途上の分野であり、その基礎を築く上で三木安正の果たした役割は極めて大きいと言えます。彼は、子ども一人ひとりの個性や発達段階に応じた教育の重要性を説き、画一的ではない支援の必要性を訴え続けました。

主要な著作と研究活動

三木安正は生涯にわたり多くの著作や論文を発表し、後進の指導にあたりました。代表的な著作には、『幼児の心理と教育』、『精神遅滞児の教育』、『特殊教育』、『精神薄弱教育の研究』などがあります。これらの著作は、それぞれの時代の特殊教育や幼児教育のあり方に大きな影響を与えました。彼の研究は、知能検査の問題点、学業不振児への対応、精神薄弱児の判定基準、親の態度など、多岐にわたります。

また、国内外の専門家との共同研究や、海外の文献の翻訳も積極的に行いました。エリス・H.マーテンスやカーク夫妻の著作を翻訳するなど、海外の先進的な知見を日本に紹介する役割も担っています。これは、日本の教育心理学や特殊教育を国際的な水準に引き上げる上でも重要な意義を持ちました。

彼の学問的・実践的な功績は高く評価されており、1980年には朝日賞を受賞、1982年には勲二等瑞宝章を受章しています。また、日本教育心理学会の名誉会員でもありました。

三木安正の遺志は、彼が創立に関わった旭出学園や、編纂された『三木安正著作集』全7巻などを通じて、現在も受け継がれています。彼の研究と実践は、現代の幼児教育や特別支援教育にも通じる重要な示唆を与え続けています。

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