三条町子

三条町子（さんじょう まちこ）は、昭和歌謡の黄金期を彩った女性歌手です。本名は藤田信子といい、旧姓は宮野。1925年1月9日に青森県八戸市で生を受け、2022年8月30日に97歳で逝去しました。叙情的なメロディーを情感豊かに歌い上げ、戦中戦後の困難な時代から日本の復興期にかけて、多くの人々に感動と希望を与えました。

歌の道を志したのは、作曲家である大村能章に師事したことがきっかけです。第二次世界大戦中は栃木県に疎開するなど、苦難を経験しました。終戦を経て、1948年（昭和23年）に上京。同年、キングレコードから本名の「宮野信子」として、「泪（なみだ）のブルース」でレコードデビューを果たしました。初期には他に「黄昏の花園」などの楽曲を発表しています。

転機が訪れたのは1949年（昭和24年）です。この年、芸名を「三條町子」と改め、発表した楽曲「かりそめの恋」が爆発的なヒットを記録しました。この大ヒットにより、その名は瞬く間に全国に知れ渡り、一躍人気歌手としての地位を確立しました。続いて、1951年（昭和26年）にリリースした「東京悲歌（とうきょうエレジー）」も大きな反響を呼び、彼女の代表曲の一つとなりました。

興味深いエピソードとして、後輩歌手である大津美子の代表曲「ここに幸あり」（1956年発表）が挙げられます。この曲は、当初三条町子が歌唱する予定で制作が進められていましたが、当時彼女が出産を控えていたため、同じレコード会社に所属していた新人の大津美子に歌唱の機会が巡ってきたと言われています。また、三条町子の楽曲には、デビュー曲「泪のブルース」と全く同じタイトルでありながら、異なるメロディーと歌詞を持つ「涙のブルース」という楽曲が存在します。こちらは1950年（昭和25年）に三條町子名義で発表されたものです。

歌手活動の全盛期を経て、三条は結婚を機に一度は芸能界を離れ、家庭に入りました。しかし、1960年代半ば頃（昭和40年代）になると、テレビ番組で過去のヒット曲が頻繁に取り上げられるようになり、いわゆる「懐メロブーム」が到来します。これに乗じて、彼女も再び歌の舞台に立つ機会が増え始めました。この頃から、芸名の表記を「三条町子」と改め、時折テレビ出演するなど、ゆるやかに活動を再開しました。

高齢になってからもその歌声は衰えることなく、平成の時代まで精力的に活動を続けました。特に、2011年11月11日にゆうぽうとで開催された「第38回日本歌手協会歌謡祭」では、菅原都々子や安藤まり子、縁のある大津美子らと共にステージに立ち、健在ぶりをアピールしました。さらに、87歳となった2012年1月17日には、「NHK歌謡コンサート」（NHK総合）に生出演し、最大のヒット曲「かりそめの恋」をしっとりと歌い上げ、視聴者に深い感動を与えました。

2022年8月30日午後5時5分、長年暮らした神奈川県大和市の自宅にて、老衰のため静かに息を引き取りました。97歳でした。昭和歌謡の歴史において確固たる足跡を残した歌姫の訃報は、多くのファンに惜しまれました。

主な代表曲

かりそめの恋（1949年）
東京悲歌（とうきょうエレジー）（1951年）
私は銀座リル（1952年）
想い出のランプに灯を入れて（1953年）
恋の火の鳥（1954年）

主な映画出演

『紅椿』（1953年、吉村廉監督） - 歌手 役として出演。

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