三波石峡

三波石峡：緑輝く奇岩と渓谷美、そして再生への道のり

三波石峡は、群馬県藤岡市と埼玉県神川町に跨がる神流川上流に位置する景勝地です。その独特な景観は、国の名勝・天然記念物として指定されています。関東山地東部に位置し、急峻な地形と清流が織りなす自然美は、訪れる人々を魅了します。

地理と地形

三波石峡は、利根川水系、烏川の支流である神流川の上流部に位置します。昭和43年（1968年）に建設された下久保ダムの下流、約1.5～2.0kmの区間が峡谷として知られています。神流川はこの区間において埼玉県と群馬県の県境をなし、右岸が埼玉県神川町、左岸が群馬県藤岡市に属します。

峡谷一帯は、雨降山などの1000m級の山地から丘陵地へと移り変わる地点にあり、多野山地とも呼ばれます。両岸には神山などの標高700m級の山々がそびえ立ち、川幅は狭まり、落差10mほどの断崖が連なります。峡谷の出口からは平野が広がります。左岸の崖上には地滑り地形が点在し、下久保、栢ヶ舞、今里などの集落が形成されています。

地質：三波川変成帯の模式地

三波石峡は、日本最大の広域変成帯である三波川変成帯（三波川帯）の模式地として知られています。この変成帯で見られる変成岩は三波川変成岩と呼ばれ、日本列島を代表する変成岩の一つです。三波川変成帯は、中央構造線に沿って帯状に連なり、関東山地から紀伊半島、四国を経て九州へと続いています。

この名称は、明治時代に地質学者の小藤文次郎が三波川を調査し、発見した結晶片岩を三波川結晶片岩と命名したことに由来します。小藤の紹介により、三波石は世界的に知られるようになりました。

三波石峡の岩石は、かつて海底火山によってできた玄武岩質の溶岩・火山岩や火山灰を主体とする堆積層が、地殻変動によって地中深くに沈み込み、低温・高圧の変成作用を受けたものです。その結果、緑泥石や緑簾石に富む緑色の岩石となり、特徴的な景観を作り出しています。

三波石：銘石としての歴史

三波石は、美しい青緑色から緑色、黄緑色を帯びた岩石に白色の石英の細脈が走るのが特徴で、古くから庭石として珍重されてきました。江戸時代の史料にも採取に関する記述があり、少なくとも江戸時代初期には銘石として知られていたと考えられています。

昭和32年（1957年）に国の名勝・天然記念物に指定され、指定区域内での石の採取は禁止されましたが、その人気は衰えず、周辺地域は庭石の集散地として発展しました。

景勝地：渓谷美と観光の歴史

三波石峡は、断崖絶壁と奇岩、巨岩が織りなす渓谷美で知られ、江戸時代の史料にもその美しさが記されています。観光客も訪れ、地元の村々は観光案内や宿の提供で収入を得ていました。峡谷には「三波石四十八石」と呼ばれる名石があり、それぞれに固有の名前が付けられていました。

ダム建設の影響と再生への取り組み

昭和43年（1968年）の下久保ダム完成により、渓谷の環境は大きく変化しました。ダムによる河川の流量減少は、植生の繁茂や名石の汚れを引き起こし、景観を損ねました。また、土砂供給の停止は河原の消失や川床の深化をもたらし、生態系にも影響を与えました。

荒廃した三波石峡を再生するため、平成13年（2001年）から峡谷への放水が再開されましたが、十分な効果は得られませんでした。そこで、ダムに堆積する土砂を放水に合わせて流す「土砂掃流」が検討され、平成15年（2003年）から開始されました。この取り組みにより、岩石の表面が очищенных され、美しい緑色の岩肌が蘇りつつあります。また、川床の回復も期待されています。

三波石峡は、自然の力と人々の努力によって、往年の姿を取り戻しつつあります。その美しい景観は、訪れる人々に感動を与え、自然保護の重要性を教えてくれます。

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