三裂星雲

三裂星雲（M20、NGC 6514）

三裂星雲は、いて座の方向およそ5,200光年（諸説あり、2,200光年から9,000光年まで幅がある）に位置する、光り輝く散光星雲です。メシエカタログではM20、ニュージェネラルカタログではNGC 6514として知られています。その名前は、星雲が三つの部分に分かれて見える特徴的な姿に由来しています。

名前の由来と見かけの構造

この「三裂」という見かけは、星雲そのものが物理的に分割されているわけではありません。実際には、M20の手前に存在する濃いガスや塵の集まりである暗黒星雲が、背後の明るい散光星雲からの光を効果的に遮ることで、星雲が三つに裂けているかのように見えているのです。

内部構造と若い星団

M20の内部構造は均一ではありません。星雲の北側は、近くの星からの光を反射して青く輝く反射星雲としての性質を強く持っています。対照的に、南側は、内部で誕生した高温な若い星からの強力な紫外線によってガスが励起され、自ら赤い光を放つ輝線星雲です。特にこの南側の領域で、暗黒帯による「三裂」の姿が顕著に見られます。

三裂星雲は若い星々の集まり、すなわち星団も伴っています。特に明るく高温なO型星が120個ほど存在しており、これらは三裂星雲内で生まれたと考えられています。これらのO型星は、その強い放射によって周囲のガスや塵を吹き散らし、その影響下にある領域では新たな星の形成が抑制されています。

位置と観測

三裂星雲は、いて座にある有名な干潟星雲（M8）のすぐ北隣に位置しており、また北東にはM21散開星団があります。双眼鏡で観測すると、干潟星雲と共にM20が視野内にぼんやりとした光の塊として捉えられることがあります。

三つに分かれた詳細な構造を捉えるには、望遠鏡での観測が望ましいです。小口径の望遠鏡では分割を確認するのは難しいかもしれませんが、中央部の明るい部分には、ウィリアム・ハーシェルが発見した三重星NH40が見え始めます（口径10cm程度）。この三重星は、それぞれの星が異なる色に見えるのが特徴的です。

望遠鏡の口径を大きくすると、より複雑な構造が明らかになります。口径20cmクラスでは、星雲を分断する暗黒帯の一部が見えてきます。さらに口径30cmクラスになると、暗黒帯の形状から星雲が四つに分かれているようにも見える様相を捉えることが可能となり、「クローバー」に例えられる見え方も理解できます。大型の口径50cmクラスでは、暗黒帯の内部の微細な構造まで観測できます。肉眼での観測は困難ですが、写真撮影には非常に適しており、三裂した鮮やかな姿を比較的容易に写し出すことができます。

最新の知見と観測史

近年、ハッブル宇宙望遠鏡のような高性能な観測機器によって、三裂星雲のより詳細な研究が進んでいます。例えば、星雲内部で誕生中の原始星から、全長0.75光年にも及ぶガスのジェットが噴出している様子が捉えられています。

三裂星雲の観測の歴史も多様です。18世紀の天文学者シャルル・メシエは、この天体を「星団」として記録しましたが、彼のカタログで星雲に言及されたのはM21の項でした。後に「三裂星雲」と命名したのは、19世紀のジョン・ハーシェルです。しかし、彼の父ウィリアム・ハーシェルは、この星雲を「四つ」の部分に分類しており、この歴史的な経緯が、星雲が三つだけでなく四つに見えることもあるという事実を物語っています。

三裂星雲は、暗黒星雲によるユニークな見かけ、色鮮やかな輝線・反射星雲、そして活発な星形成の痕跡が共存する、天文学的に非常に興味深い対象です。その複雑な美しさは、多くの観測者を魅了し続けています。

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