三角寛

三角寛（1903-1971）は、小説家、特に山窩（サンカ）を題材とした作品で知られる作家であり、実業家としても映画館を経営しました。本名は三浦守で、僧侶としては釈法幢と称しました。

生い立ちと青年期
大分県直入郡岡本村（現在の竹田市）に農家の末子として生まれます。幼くして父と死別し、10歳で豊後大野市の真宗系寺院に預けられました。19歳の頃に郷里を出奔。本人は日本大学法科卒業と語っていましたが、研究者からは小学校卒業の可能性が高いと疑問視されています。

朝日新聞記者時代
1926年、朝日新聞社に非正規雇員として入社し、警察担当の取材記者となります。説教強盗事件の報道で注目を集める中で、犯人がサンカかもしれないという言葉を聞き、漂泊の民であるサンカに関心を抱きました。記者としてはセンセーショナルな記事で人気を博しましたが、その手法は上司から警戒されることもあったようです。

小説家としての成功
記者の仕事と並行して小説を書き始め、雑誌『婦人サロン』に連載した「昭和毒婦伝」で文壇デビューを果たします。この作品でサンカを題材に取り上げ始めた後、『怪奇の山窩』『情炎の山窩』『純情の山窩』といった山窩小説を発表し、流行作家としての地位を確立しました。小説執筆で多忙になったため、1933年に朝日新聞社を退社しています。

多彩な活動と実業家として
小説家として活動する傍ら、1935年頃には新興宗教「ひとのみち」（現在のPL教団）に入信し、教団を批判した言論人に対して抗議行動を起こしています。また、1942年には皇国薬草研究所を設立し、所長としてサンカに伝わる薬草知識を軍事利用しようとしました。

第二次世界大戦後は、娯楽産業の将来性に着目し、映画館経営に乗り出します。映写機を入手し、「人世坐」「文芸坐」といった映画館を経営し、吉川英治や井伏鱒二などの著名な文化人も株主として名を連ねました。

サンカ研究とその評価
三角寛はサンカに関する独自の調査・研究を進め、1962年にはその成果をまとめた「山窩族の社会の研究」で東洋大学から文学博士の学位を取得しています。彼の研究は後のサンカ研究者にも資料として参照されることがありますが、多くの研究者からは、その内容の大部分が三角自身の創作であり、学術的な根拠に乏しい虚構であると指摘されています。サンカに関する研究を独占しようとし、他の研究者に対して排他的な態度をとることもありました。

晩年と死去
晩年には埼玉県内の寺院で住職も務めました。全集『三角寛全集』の刊行中に心筋梗塞により倒れ、1971年に死去。全集は未完に終わりました。

社会に対する姿勢
1958年に起こった警察官職務執行法改正案に対する国民的反対運動の際、所属する日本文芸家協会が反対声明を発表する中で、ただ一人協会の行動に反対する談話を新聞に寄稿し、波紋を呼びました。

家族
妻はよしい。娘に舞踏家の林寛枝、婿養子に映画評論家の三浦大四郎。孫に日本舞踊家の林千永、曾孫に歌舞伎俳優の二代目市川青虎がいます。

主な著書としては、『縛られた女たち』『慈悲心鳥―山窩史話』『愛欲の瀬降―山窩綺談』などがあります。そのユニークな生涯と、虚実が入り混じるとされるサンカ研究は、没後も関心を集め続けています。

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