三輪休和

三輪 休和

三輪 休和（みわ きゅうわ、1895年〈明治28年〉4月20日 - 1981年〈昭和56年〉10月24日）は、日本の高名な陶芸家であり、萩焼三輪窯の十代当主として「三輪休雪」の名跡を継いだ人物です。本名は邦広（くにひろ）。萩焼の伝統を守りつつ、独自の表現を追求し、1970年（昭和45年）に重要無形文化財「萩焼」の保持者、いわゆる人間国宝に認定されました。

生涯

三輪休和は、1895年（明治28年）、山口県萩市にある、江戸時代には萩藩の御用窯を務めた由緒ある三輪家の九代当主、三輪雪堂の次男として誕生しました。陶芸の家に生まれた彼は、幼い頃から作陶を取り巻く環境にありました。

1908年（明治41年）、地元の旧制萩中学校に進学。旧明倫館の流れを汲むこの学校で、彼は優れた成績を収め、二年次に進級しました。しかし、彼の祖父にあたる雪山は、「職人にとって最も大切なのは、書物上の知識よりも、ひたすら技を磨くことである」という考えを持っていました。祖父の強い説得を受け、休和は二年を終えたところで中学校を退学するという決断をします。

学校教育を離れた彼は、すぐに家業である作陶の道へ進みました。父である九代雪堂から直接、萩焼の基本的な技術や伝統を厳しく学びます。陶土の扱い方、轆轤の技術、釉薬の調合、窯の焚き方など、萩焼の奥深さを体得していきました。

また、祖父・雪山の勧めは学問を否定するものではなく、職人としてだけでなく、人としての深みを養うことにも向けられていました。休和は茶道（江戸千家流の阿部直彦に師事）や、宝生流の渡辺蒿蔵について謡曲を学ぶなど、幅広い伝統文化や諸芸の研鑽に励みました。これらの修練は、彼の感性を磨き、後の作風に豊かな影響を与えることになります。

昭和12年（1937年）、休和は父から三輪窯を継承し、名実ともに十代三輪休雪を襲名しました。家業の伝統を守りつつ、自身の目指す作陶に邁進します。

昭和17年（1942年）には、当時を代表する著名な陶芸家たち、すなわち川喜田半泥子、金重陶陽、荒川豊蔵らと交流を深め、「からひね会」を結成しました。この会は、陶芸界における新たな試みや交流を目的としたものと考えられますが、残念ながら具体的な芸術活動へと大きく発展するには至りませんでした。

作風と栄誉

三輪休和の作風は、朝鮮半島から伝わった高麗茶碗が持つ素朴さと温かみに、日本の美意識や穏やかな感性を巧みに融合させた、温和で気品あふれる趣が特徴です。特に、萩焼で古くから用いられてきた藁灰釉に独自の工夫を凝らし、新たな表現を追求しました。彼の研究と試行錯誤の末に完成した白釉は、まるで春の雪解けのように柔らかく、温かみのある独特の色合いと質感を持っています。この類まれな白釉は、昭和30年（1955年）頃から陶芸界や茶道の世界で高く評価され、「休雪白」という名で広く知られるようになりました。休雪白の作品は、萩焼本来の詫び寂びの精神に通じながらも、明るく清らかな趣があり、多くの愛好家を魅了しました。

その永年の功績に対し、休和は多くの栄誉を受けます。昭和31年（1956年）には、山口県指定無形文化財萩焼保持者として認定されました。

昭和42年（1967年）、彼は重要な決断をします。みずから三輪休雪の名跡を実弟である三輪節夫（後の十一代三輪休雪）に譲り、第一線からは退いて「休和」と号するようになりました。これは、家業の伝統を次世代に引き継ぎつつ、自身は「休和」としてさらに自由に作陶の道を歩もうとする意思表示でした。

同昭和42年（1967年）には、芸術文化の分野で功績を挙げた者に贈られる紫綬褒章を受章。そして、昭和45年（1970年）、国の重要無形文化財「萩焼」保持者に認定され、陶芸界における最高の栄誉の一つである人間国宝となりました。これは、彼が長年にわたり萩焼の伝統を守り発展させた功績、特に「休雪白」に代表される独自の創造性が国家によって認められたことを意味します。

その後も、昭和47年（1972年）には生まれ故郷である萩市の名誉市民に推挙され、翌昭和48年（1973年）には勲四等旭日小綬章を受章するなど、その功績は広く称えられました。

晩年と後世への影響

人間国宝に認定された昭和45年（1970年）以降、三輪休和は毎年、故郷である萩市に多額の寄付を続けました。この寄付金は、現在「三輪休和芸術文化奨学金」として活用されており、地元の芸術文化の振興や後進の育成に役立てられています。

三輪休和は、昭和56年（1981年）10月24日に86歳で逝去しました。彼の生涯は、萩焼の伝統技術を深く習得するとともに、茶道や謡曲など他分野の素養も取り入れながら、自身の内面から湧き上がる美意識を作陶に昇華させたものでした。特に「休雪白」は、萩焼の歴史に新たな一頁を加え、その名は後世に長く語り継がれています。彼の作品は国内外の多くの美術館に収蔵されており、今なお多くの人々を魅了し続けています。

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