三輪逆

三輪逆（みわ の さかう）

三輪逆は、古墳時代に活躍した豪族であり、姓は君（きみ）と称し、逆君とも記されました。三輪特牛（みわ の とくご、または矢口）を父に持ち、敏達天皇の信頼厚い臣下として重用されました。その生涯は、仏教の受容を巡る権力闘争と深く結びついており、激動の時代を象徴する人物の一人と言えるでしょう。

敏達天皇の寵臣として

三輪逆は、敏達天皇の治世において、その寵臣として活躍しました。天皇からの信頼は非常に厚く、内外の政務を任されていたと伝えられています。

仏教受容を巡る対立

仏教が日本に伝来し、受容が進む中で、伝統的な神道を守ろうとする勢力と、仏教を積極的に受け入れようとする勢力の間で対立が激化しました。三輪逆もその対立に巻き込まれていきます。

敏達天皇14年（585年）6月、蘇我馬子が仏教を許可され、寺を建立し仏像を祀った際、三輪逆は物部守屋、中臣磐余（なかとみ の いわよ）らとともに、寺塔を焼き払い、仏像を破壊しようと企てました。しかし、蘇我馬子によってその計画は阻止されています。この出来事は、当時の宗教観と政治情勢が複雑に絡み合っていたことを示しています。

敏達天皇崩御後の動乱

同年8月、敏達天皇が崩御すると、殯宮（もがりのみや）で葬儀が執り行われました。この時、三輪逆は「朝廷を乱さないよう、鏡のように清めて平らかに治まるよう臣として仕えます」と弔いの言葉を述べ、隼人（はやと）を集めて殯庭（もがりのにわ）を警護しました。その忠誠心は、周囲の者に感銘を与えたとされています。

穴穂部皇子との対立

用明天皇元年（586年）5月、穴穂部皇子が炊屋姫（かしきやひめ、後の推古天皇）を犯そうと殯宮に押し入ろうとした際、三輪逆は兵を集めて宮門を閉ざし、侵入を拒みました。穴穂部皇子は七度も開門を要求しましたが、三輪逆はそれを許しませんでした。

この行動に激怒した穴穂部皇子は、大臣の蘇我馬子と大連の物部守屋に対し、三輪逆が不遜であると訴えました。蘇我馬子と物部守屋もこれに同意し、穴穂部皇子は天皇になることを企て、三輪逆を殺害しようと画策します。

最期

穴穂部皇子は物部守屋と共に兵を率いて、磐余の池辺を囲みました。三輪逆はこれを知り、三輪山に逃れます。しかし、その日の夜に山を降り、炊屋姫の後宮（海石榴市宮、つばいちのみや）に身を隠しました。ところが、三輪逆の一族である白堤（しらつつみ）と横山（よこやま）がその居場所を密告しました。

穴穂部皇子は物部守屋に使いを送り、三輪逆とその二人の子供を殺害するよう命じました（泊瀬部皇子（はつせべのみこ、後の崇峻天皇）もこの謀議に加担していたとされています）。守屋は兵を率いて海石榴市宮へ向かい、三輪逆を討ちました（穴穂部皇子が自ら射殺したという説もあります）。

この事件の後、蘇我馬子は「天下の乱は近い」と嘆き、物部守屋は「汝のような小臣の知るところではない」と述べたと言われています。

三輪逆の死は、その後、蘇我馬子と物部守屋との対立を激化させ、後に丁未の乱（ていびのらん）と呼ばれる大規模な内乱へと発展していく一因となりました。

系譜

「大三輪朝臣系図」によると、三輪逆の系譜は以下の通りです。

父：三輪特牛（または矢口）
母：賀茂笠女
妻：不詳
男子：三輪小鷦鷯
男子：三輪弟隈

三輪逆の評価

三輪逆は、敏達天皇から深く信頼され、内外の政務を任されるほどの実力者でした。しかし、仏教受容を巡る争いの中で、悲劇的な最期を遂げました。彼の死は、当時の政治情勢の不安定さと、権力闘争の激しさを物語っています。また、彼を殺害した穴穂部皇子や物部守屋も、その後の政変で滅ぼされており、歴史の大きな流れの中で翻弄された人物であったと言えるでしょう。

関連項目

丁未の乱
* 飛鳥時代以前の人物一覧

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