三重交通ク600形電車

三重交通ク600形電車

三重交通ク600形電車は、現在の近鉄志摩線で活躍した車両です。後に近畿日本鉄道（近鉄）に引き継がれ、ク5910形およびク5930形となりました。さらにク5930形はサ5930形に改造され、養老線（現・養老鉄道）でも使用されました。

概要

1952年5月、朝鮮戦争後の経済復興に伴う観光客輸送の需要増加に対応するため、ナニワ工機（尼崎）でク601 - ク603の3両が製造されました。この車両は、鳥羽寄りのみに運転台を備えた制御車であり、主電動機は搭載していません。

車体

車体は、当時のナニワ工機で一般的な工法である、窓の上下にウィンドウヘッダー・ウィンドウシルと呼ばれる補強用の帯板を露出させた全溶接構造の半鋼製車体です。台枠は形鋼通し台枠を用いています。

全長は15,000mmで、連結相手となるモニ550・モニ560形よりも約2.4m長くなっています。窓配置はd1(1)D8D(1)1と非対称で、前後の扉位置と台車心皿の中心間距離が異なっています。将来的な電装や両運転台化は想定されていません。

窓は高さ950mm、幅800mmの2段上昇式で、従来の車両とは異なり大型化されています。客用扉は幅950mmの片引き戸です。大きな窓の採用に加え、車体の柱を長くし、窓上の幕板を上方に延長した張り上げ屋根構造により、明るく軽快な印象を与えます。雨樋は省略され、各扉の上には雨水が直接かかるのを防ぐための水切りが設置されています。

乗務員室は客室と完全に区分された全室式で、座席はロングシートです。通風器としてガーランド式通風器が屋根上中央に等間隔に5基備えられています。前照灯は白熱電球を収めた筒型のものが屋根上に1基、尾灯は車掌台側に丸形のものが埋め込み式で設置されています。

連結相手の電動車が貫通路を持たないため、妻面は乗務員室側も連結面側も3枚窓構成の非貫通構造です。妻窓は運転台側のみ1枚窓で、他は2段上昇式窓となっています。塗装は三重交通標準の上半分クリーム、下半分グリーンのツートンカラーです。

主要機器

制御器

連結相手の電動車に合わせて、HL単位スイッチ式間接非自動制御器を備えています。

台車

軸距2,000mmの釣り合い梁式台車ですが、形鋼組み立て式ではなく、扶桑金属工業製のKS-33E鋳鋼台車を装着しています。これは、当時のナニワ工機の親会社である京阪神急行電鉄向け車両に標準的に採用されていたものと同系です。

ブレーキ

M三動弁に中継弁を付加したMR(ACM-R)ブレーキを備えています。ブレーキシリンダーを車体に搭載する車体シリンダー式で、台車の基礎ブレーキ装置は両抱き式です。

運用

全車とも、1969年の志摩線改軌・昇圧まで志摩線で運用されました。

ク601・603

1964年に三重交通が三重電気鉄道として分離した後、ク602に続いてク601・603にも妻面への貫通路が設置されました。三重電気鉄道が近鉄に合併された時点では、ク601がロングシート、ク602がクロスシートとなっており、合併後に以下の通り改番されました。

ク600形ク601 → ク5910形ク5911
ク600形ク603 → ク5910形ク5912

これらは通常、主電動機を4基搭載するモニ5925形と2両編成を組んで運用されました。志摩線改軌後は、養老線転属や地方私鉄への譲渡・保存は行われず、2両とも廃車・解体されています。

ク602

1958年のモ5400形（近鉄合併後はモ5960形）竣工に伴い、急行運用時の連結相手としてク602が選ばれ、日本車輌製造で改造が行われました。改造内容は以下の通りです。

妻面への貫通路設置
尾灯をモ5400形と同じ角型に変更（左右2灯）
窓枠のアルミサッシ化、戸袋窓のみ1段固定窓化
座席をセミクロスシート化
客用扉の自動扉化
放送設備の設置

この改造により、ク602はク3500形ク3502に改番されました。新装されたク3502は、モ5401やモ5411などと連結して急行運用を中心に活躍しました。

三重電気鉄道の近鉄への合併直前に塗装が近鉄一般車標準のマルーン1色に変更され、合併後に以下の通り改番されました。

ク3500形ク3502 → ク5930形ク5931

志摩線改軌後、ク5931は電装品を撤去して付随車に改造され、養老線へ転属しました。その際、運転台機器や前照灯・尾灯が撤去され、乗務員室が閉鎖された上で、以下の通り改番されました。

ク5930形ク5931 → サ5931形サ5931

サ5931形は、1977年の名古屋線車両転用に伴う養老線車両の大型化・近代化まで使用され、その後廃車解体されました。そのため、ク600形は3両全車が現存していません。

主要諸元

車体構造 - 半鋼製
最大寸法（長さ×幅×高さ）：15,830mm×2,600mm×3,880mm（サ5931形は3,710mm）
自重 - 20.0t（ク5931形・サ5931形は21.t）
定員 - 114人（座席48人、サ5931形は定員120人）
制動方式 - ACM-R自動空気ブレーキ（サ5931形はATA-R）
台車 - 扶桑金属工業KS-33E

参考文献

「私鉄電車ガイドブック 4 近鉄」（慶應義塾大学鉄道研究会編）1970年版
「鉄道ピクトリアル 」近鉄特集（電気車研究会）1975年313号
鉄道史資料保存会『近鉄旧型電車形式図集』、鉄道史資料保存会、1979年
近鉄電車80年編集委員会『近鉄電車80年』、鉄道史資料保存会、1990年
『鉄道ピクトリアル No.727 2003年1月臨時増刊号』、電気車研究会、2003年
『車両研究 1960年代の鉄道車両 鉄道ピクトリアル 2003年12月臨時増刊』、電気車研究会、2003年

関連項目

近畿日本鉄道の車両形式

外部リンク

里山工房

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