上原木呂

上原木呂：シュルレアリスムと酒造業の融合、そして水墨抽象への展開

上原木呂（うえはら きろ、本名：上原誠一郎）は、1948年新潟県生まれの美術家、シュルレアリスト、そしてパフォーマーです。その経歴は、伝統的な酒造業の五代目蔵元としての役割と、国際的な舞台を駆けたアーティストとしての活動という、一見対照的な二つの側面を鮮やかに融合させています。

幼少期から絵画への強い関心を抱き、ゴッホの絵画に感銘を受けた彼は、フロッタージュやデカルコマニーといった技法に没頭しました。新潟高校時代には美術部で油絵を学び、ダリや岸田劉生の作品を模写する中で、シュルレアリスムへの関心を深めていきます。東京藝術大学に進学するも中退後、美学校で研鑽を積み、立石鐵臣に師事しました。

この頃、上原は瀧口修造と出会い、彼の影響を強く受けることになります。瀧口のアトリエでの手伝いを通して、シュルレアリスムの巨匠マックス・エルンストの作品『百頭女』と出会い、自身のコラージュ制作を始めるきっかけとなります。初期の作品は、古釘やミニカメラのフィルムなど、身近な素材を用いた実験的なものでした。唐十郎の状況劇場への参加など、演劇活動にも携わる多様な活動は、上原の芸術表現の幅を広げていきました。

1970年代半ば、上原は過去の作品を焼き捨てる決断をし、ヨーロッパへと旅立ちます。イタリアではコッメディア・デラルテを学び、フェデリコ・フェリーニとも交流しました。約12年間のヨーロッパ滞在は、彼の芸術観に大きな影響を与えたと言えます。19世紀の銅版画挿絵入りの古書を収集し始めますが、それらをコラージュの素材として本格的に用いるのは、帰国後の2000年代に入ってからです。

1988年に帰国した上原は、家業である酒造業を継ぎ、五代目蔵元となります。その後も創作活動を続け、1990年代には、糸井貫二（ダダカン）との交流や、アントニ・タピエスとの出会いなど、数々の刺激的な経験を重ねます。1994年にはエチゴビール醸造所を開設するなど、精力的な活動は多方面に広がっています。

2000年代に入ると、上原は白黒のコラージュ作品を本格的に制作し始めます。イタリアで収集した古書を素材に、『幻獣圖絵』、『眼球國譚』、『博物誌』といったシリーズを発表し、高い評価を受けます。その後はカラーコラージュに転向し、『怪物のユートピア』、『時の万華鏡』といったシリーズを制作。浮世絵や明治・大正時代の引札、和本といった日本の伝統的な紙媒体を取り入れ、独特の色彩と世界観を表現しました。

2010年代からは、作風を一新し、抽象表現へと傾倒していきます。アクション・ペインティングの手法を取り入れ、オートマティズム、デカルコマニー、フロッタージュなど様々な技法を駆使した《水墨抽象》シリーズを生み出します。和紙や墨、さらには蒟蒻や畳といった、独創的な素材や道具を用いた実験的な作品は、伝統と現代性を融合させた上原独自の表現と言えるでしょう。現在も精力的に制作活動を続け、年間2万枚以上の作品を制作しています。

上原木呂の活動は、シュルレアリスム、ダダ、抽象表現主義といった様々な芸術運動の影響を受けながらも、独自の視点と手法で展開されており、酒造業という伝統的な家業と、現代美術という最先端の芸術表現との融合という、稀有な軌跡を描いています。彼の作品は、見る者に想像力を掻き立てる、独特の世界観を提示し続けています。

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