上官婉児

上官婉児：唐代の女性詩人の素顔

上官婉児（じょうかん えんじ、664年 - 710年）は、7世紀の中国唐代に生きた著名な女性詩人で、上官昭容（じょうかん しょうよう）とも呼ばれる。彼女の生涯は波乱に満ちており、女性としての地位を超えた影響力を持った人物として記憶されている。出生地は陝州陝県で、本貫は隴西郡上邽県であり、彼女の出自の背景には著名な先祖が存在した。祖父は上官儀、父は上官庭芝であり、彼女の家系は貴族に連なるものであった。

彼女の人生は、麟徳元年（664年）に起こった一族の強制的な処罰によって一変する。一族の大半が処刑され、彼女自身も婢（し）としての身分に落ちてしまった。しかし、その頭脳明晰さと並外れた詩文の才能によって、則天武后に特別な愛情を受けることになる。中宗の治世では、彼女は女官（正二品）としての地位を獲得し、重要な文学活動に関与した。中宗は「修文館」を設立し、そこで多くの文人たちと詩の宴を開くようになり、上官婉児の指導のもと、宮廷内では詩作が広まっていった。

一方で、婉児は則天武后の甥である武三思と密接な関係を持ち、彼を中宗に推挙する立場に立った。さらに、彼女は韋皇后に対しても則天武后の過去の行動を示唆し、権力掌握に関与しようとした。しかし、これは後に反発を呼び、韋皇后のクーデターが失敗に終わった際、李隆基（後の玄宗）の目の前で引き出され、ついには命を落とすこととなる。

上官婉児の没後、開元年間に彼女の業績を残す『詔張説題篇』の20巻が発表された。彼女の代表作には『綵書怨』（さいしょえん）があり、後世に多大な影響を与えている。

彼女の人物像は、近年の発掘によってさらに深まっている。2013年、西安空港の建設中に見つかった彼女の墓誌には「度々中宗を諫めた」との記載があり、それをもとに彼女が政治的にも影響を持ったことが明らかになった。また、発掘された俑の姿からは、政務にかかわる際に男装をしていた可能性が示唆されており、彼女が「後宮の女性」と非難されることなく「高級官僚」としての地位を確立していたことを伺わせる。

上官婉児は、その詩的才能と政治的な才覚により、唐代の女性としては異例の存在であった。彼女の生涯は文学だけでなく、女性の社会的地位向上に向けた一つの道しるべとしても位置づけることができる。現在、映画やテレビドラマなどさまざまな作品において彼女のストーリーが描かれており、彼女の影響力は時代を超えて語り継がれている。彼女の詩が持つ力と、彼女自身の波乱の人生には今なお多くの人々が興味を抱いている。

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