上弦の月を喰べる獅子

上弦の月を喰べる獅子

『上弦の月を喰べる獅子』は、著者・夢枕獏による幻想的なSF小説であり、1986年から1988年まで『SFマガジン』に連載され、その後1989年に早川書房から単行本として刊行されました。この作品は、1989年に第10回日本SF大賞、1990年には第21回星雲賞日本長編賞を受賞するなど、高く評価されています。

物語の内容

物語は、あらゆる螺旋を収集する「螺旋蒐集家」として知られる三島草平が主人公です。彼はある日、現実には存在し得ない螺旋状の階段を見つけ、その階段を登り始めます。一方、若き日の宮沢賢治は北上高地で巨大なオウムガイの化石を発見します。この二人は時間の壁を超えて融合し、アシュヴィンという存在になります。

アシュヴィンは、兄妹であるダモンとシェラと出会い、誰も見たことがない蘇迷楼（スメール）の山頂を目指します。山に登る中で、アシュヴィンは繰り返し問答を行い、自己の存在について深く考察することになります。本作は遍路譚の形を借りながらも、仏教の哲学やヒンドゥー教の宇宙観が交錯する広大なスケールの物語です。特に「アシュヴィン」の名前は、ヒンドゥー教の双神アシュヴィンに由来しています。

絵画との関係

この小説のタイトルは、単行本の表紙に描かれた絵画「上弦の月を喰べる獅子」に由来します。この作品は、インド出身の現代女性画家ガンガー・デーヴィーによって描かれ、絵画の題名は、音楽バンド上金実のメンバーであり、現在は新潟県十日町市にあるミティラー美術館の館長である長谷川時夫によって名付けられました。この絵画は、北インドとネパールの伝統的な技法であるミティラー画に分類されます。

ガンガーは、絵画の中心に位置する獅子がメスであり、その腹には月を呑み込むのではなく、子を宿していると説明します。この「月」にという表現は、命名者である長谷川が月見を好むために付けられたものです。絵画は人間の一生を動物に擬態させて描いたものであり、ヒンドゥー教の影響が強い作品となっています。

関連作品

夢枕獏の他の作品としては、「上段の突きを食らう猪獅子」があります。これは本作の内容を著者の好みであるプロレスなどの格闘技に置き換えたセルフパロディ的作品であり、こちらも星雲賞を受賞しました。また、アニメ「天元突破グレンラガン」においては、シリーズ構成の中島かずきが「螺旋」をテーマに作品を制作する際、夢枕獏の名を挙げており、交流があったことが知られています。

このように、『上弦の月を喰べる獅子』は、独自の哲学的探求や壮大なスケール感を持つ作品であり、夢枕獏の文学の中でも特に重要な位置を占める一冊です。

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