上日置駅

上日置駅：歴史に刻まれたスイッチバック駅の記憶

上日置駅（かみひおきえき）は、かつて鹿児島県日置郡日吉町（現・日置市日吉町）に位置していた、鹿児島交通枕崎線（南薩鉄道）の駅でした。この駅は、単なる通過点ではなく、その独特な構造と歴史において、地域の人々の記憶に深く刻まれています。

誕生から終焉まで

1916年（大正5年）7月25日、上日置駅は「毘沙門駅（びしゃもんえき）」として産声を上げました。当時は日置郡日置村に位置し、地域住民の足として重要な役割を担っていました。その後、1934年（昭和9年）6月1日に「上日置駅」と改称。しかし、平穏な日々は長くは続きませんでした。

1945年（昭和20年）3月18日、太平洋戦争の戦火は、この小さな駅にも及びました。アメリカ軍による空襲により、通学・通勤時間帯の列車が機銃掃射を受け、学生2名と車掌1名が犠牲となりました。機関士も重傷を負いながらも、列車をトンネルへ退避させるという悲劇に見舞われました。この出来事は、地域住民にとって忘れられない痛ましい記憶として残っています。

戦後、上日置駅は再び日常を取り戻しますが、1971年（昭和46年）4月1日に無人化され、同時にスイッチバックの使用も停止されました。そして1984年（昭和59年）3月17日、枕崎線の廃止と共に、上日置駅はその歴史に幕を閉じました。

特徴的な駅構造

上日置駅は、日置駅側から伊集院駅側へ向かって上り勾配が続く途中に位置していました。プラットホームは対向式に2面設けられていましたが、その特徴は北側のプラットホームにありました。このプラットホームに面した線路は、伊集院側からしか入線できないスイッチバック構造になっていたのです。つまり、上り列車は一旦駅を通過した後、バックしてホームに入る必要がありました。この独特な構造は、当時の鉄道技術の一端を示すものとして、鉄道ファンにとっても興味深いものでした。

廃止後の姿

廃止後、上日置駅のプラットホームと給水塔は、静かにその場所に残り続けました。長らく、スイッチバック側の線路跡やプラットホームは草木に覆われ、その姿を確認することは困難でした。しかし、2014年7月11日から13日にかけて南さつま市で行われた南薩鉄道100年記念展に合わせ、駅跡の整備が行われました。その結果、廃線から30年の時を経て、かつての駅の姿が再び現れました。

駅周辺と現在の様子

上日置駅の周辺には、目立った人口集積地はありませんでした。そのため、乗降客数は少なかったものの、列車交換を行う必要性から、無人化は比較的遅い時期まで行われませんでした。現在では、駅の遺構が残るのみですが、その場所を訪れることで、かつての鉄道の賑わいを偲ぶことができます。

隣の駅

鹿児島交通（南薩鉄道）

枕崎線

伊集院駅 - 上日置駅 - 日置駅

参考文献

高井薫平・田尻弘行『鹿児島交通南薩線-南薩鉄道顛末記（下）-』 2008年 ネコ・パブリッシング ISBN 978-4-7770-5238-7
日吉町郷土誌編さん委員会『日吉町郷土誌 下巻』日吉町長 野元春男、1988年。

関連項目

* 日本の[[鉄道駅一覧]]

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