上昇婚

上昇婚（じょうしょうこん）

概要と定義

上昇婚（英: hypergamy ハイパーガミー）とは、自分自身やその両親、あるいは家柄よりも高い階級や社会的地位、高学歴、または高収入の異性との結婚、もしくはそうした相手との結婚を望む傾向を指す言葉です。この傾向は特に女性に多く見られることから、一般的には女性が自身の両親よりも高い社会的地位や経済力を持つ男性との結婚を望む通婚上の慣行として理解されています。別名を「上方婚」や「ハイパーガミー」とも称し、口語では「玉の輿に乗る」と表現されることもあります。この「ハイパーガミー」という英語は、19世紀にインド亜大陸の古典的ヒンドゥー教法律書に記されていたサンスクリット語の概念「アヌロマ（高位結婚）」を翻訳する際に作られた造語とされています。現代では、本来の学術的な意味合いから離れて、自身（や親）の学歴や収入よりも高い異性との結婚という意味で使われることもあります。

家族社会学者の山田昌弘氏は、女性にとってハイパーガミーによる結婚、特に自身の父親を超える社会的・経済的地位を持つ男性との結婚は「生まれ変わり」に匹敵する出来事だと述べています。また、社会学者の赤川学氏は、ハイパーガミー、すなわち女性の上昇婚指向を、「結婚相手となるべき女性が、自分よりも経済的・社会的に有利な地位を持つと期待される男性との結婚を求める傾向」と定義しています。

対義語としての下降婚

上昇婚と対照的な概念として、「下降婚（かこうこん）」または「下方婚」（英: hypogamy ハイポガミー）があります。これは、自身や両親よりも社会的階級や地位が低い相手、あるいは低学歴・低収入の異性と結婚することを意味します。

女性の配偶者選択における傾向

多くの調査から、女性は配偶者選択において、男性よりも選り好みをする傾向があることが明らかになっています。赤川氏の定義のように、女性が自分よりも経済的・社会的に有利な地位を持つ男性を求める傾向は、この選好の厳しさとも関連していると考えられます。

世界中の様々な文化圏で行われた研究によると、男性は一般的に若さや外見の魅力を重視する傾向がありますが、女性は富や教養、野心といった要素を持つ男性を好む傾向が強いことが示されています。進化心理学の観点からは、これは生殖戦略における性差であり、男性は健康な子孫を残せる女性を求め、女性は家族を維持するための資源を提供できる男性を求めるためだと説明されることがあります。

キャリアの進展と結婚相手の可能性に関する調査では、女性の多くが自身の地位が上がるにつれて適切なパートナーが見つけにくくなると感じているのに対し、男性の多数は地位の上昇がパートナーの選択肢を増やすと感じています。これは、女性が上昇婚を志向しやすい構造を示唆しています。また、一夫一婦制における女性の配偶機会損失を補償するために上昇婚が生じるという数理モデルによる議論もあります。

オンラインデートサービスのデータ分析でも、男性が女性の外見を比較的広く評価するのに対し、女性が男性を評価する際は、一部の条件を満たす男性に評価が集中し、多くの男性が低い評価にとどまる傾向が確認されています。これは、女性が結婚相手に求める条件が男性よりも厳格である可能性を示しています。

日本の結婚相手に求める条件に関する全国調査でも、容姿を除く学歴、職業、経済力などの項目で、男性よりも女性の方が重視する割合が高いことが一貫して示されています。また、世界各地の調査でも、多くの女性が自国の平均を上回る社会的・経済的地位を持つ男性との結婚を希望する傾向が確認されています。

上昇婚指向や下降婚回避に関連する事例

特定の職業や地域においては、上昇婚を強く志向したり、あるいは下降婚を避けたりする傾向が見られます。例えば、高い専門性と収入を持つ女性医師の未婚率や離婚率は男性医師よりも高く、その配偶者も同じ医師である割合が高いことが日本のデータで示されています。これは、同等またはそれ以上の条件を持つ相手を求める傾向が強いためと考えられます。アジアの一部の都市部、例えばタイのバンコクや香港では、高学歴・高収入の女性が理想の相手を見つけにくい現状や、特定の高収入層の男性との結婚を目指す傾向が指摘されています。ノルウェーでも、男性が主たる家計の担い手であることを好む女性が多数を占める状況が続いています。アメリカでは、高学歴の黒人男性の少なさや社会的要因が影響し、黒人女性の婚姻率が低下している一因として、条件に合う相手を見つけることの難しさが挙げられます。

他方で、男性側が、妻の収入が自身の収入を上回ることや、妻が主たる稼ぎ手となる状況に対して、不快感や苦痛を感じるという調査結果も存在し、こうしたジェンダー規範意識も結婚の形に影響を与えています。

同類婚の増加傾向

人間には、自身と似た性質を持つ相手と結びつきやすい「ホモフィリー」という傾向が広く見られます。教育水準、収入、身体的魅力など、多くの面で類似した相手とパートナーになることが多いという研究があります。近年の様々な国における調査では、結婚相手の学歴や収入に関して、自身と同程度の相手を選ぶ「同類婚」が増加傾向にあることが明らかになっています。特に、欧米諸国や日本の一部の専門職においては、高学歴同士、あるいは同じ専門職同士の結婚の割合が高いことが報告されています。

同類婚の増加は、社会における格差構造を強める可能性も指摘されています。高収入同士のカップル（いわゆる「パワーカップル」）と、そうでないカップルの間で世帯収入の格差が拡大し、これが次世代の機会格差につながる懸念も示されています。

下降婚の増加傾向

過去には女性の学歴や収入が男性よりも低いことが多かったため、女性にとっての上昇婚が一般的な傾向でしたが、女性の高学歴化や社会進出、経済力の向上に伴い、多くの国で女性の学歴や収入における「下降婚」が増加傾向にあります。特に若い世代や高学歴の女性において、自身よりも学歴や収入が低い男性との結婚やパートナーシップを選ぶ割合が増えていることが、近年の研究で示されています。

例えば、アメリカでは、妻の収入が夫を上回る世帯が大幅に増加しており、高収入の女性が自分以下の収入の男性と結婚するケースも少なくありません。欧州諸国やカナダなどでも同様の傾向が見られ、共働き世帯における妻の収入割合が増加しています。韓国では専業主夫の世帯が増加しているデータもあります。

これらの変化は、女性の経済的自立が進んだことや、従来の「男性が一家の大黒柱」という価値観が変化しつつあることを反映しています。下降婚の増加は、結婚相手の選択肢が多様化していることを示す一方で、男性側の意識や社会的なサポート体制など、新たな課題も浮上させています。

まとめ

上昇婚は、特に女性に見られる伝統的な配偶者選択の傾向の一つですが、現代社会においては、女性の社会進出や教育水準・経済力の向上、そして多様な価値観の広がりを受けて、学歴や収入の面では自身と同程度の相手を選ぶ「同類婚」が主流となりつつあります。さらに、女性側の「下降婚」も増加傾向にあり、結婚やパートナーシップの形態は多様化しています。これらの変化は、個人の幸福追求や自立を反映する一方で、社会的な格差の構造にも影響を及ぼしています。

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