上杉義寿

上杉 義寿（うえすぎ よしなが）

江戸時代中期に幕府に仕えた高家旗本に、上杉義寿（うえすぎ よしなが）という人物がいた。上杉家は、足利将軍家の流れを汲む名門であり、江戸時代には高家として幕府に仕えた家柄の一つである。吉良家、畠山家、大沢家などと共に高家の中でも家格の高い家柄として知られていた。高家は、通常の旗本や大名とは異なり、領地の支配や軍事的な役割よりも、幕府の儀式典礼、朝廷からの使者の接待、将軍の上洛の際の供奉といった、主に儀礼や格式に関する職務を担っていた。

義寿の生涯は、寛保2年（1742年）に始まる。父は当時の上杉家高家旗本であった上杉義枝である。義寿は義枝の長男として生を受けた。しかし、出生したその年の12月2日という年の暮れに、父義枝が突如として世を去るという出来事があった。これにより、わずか生後間もない義寿は、図らずも上杉家高家旗本の家督を継承することとなった。幼くして父を亡くし、家の重責を背負うことになった彼の少年期については詳しい記録は少ない。

成長した義寿は、幕臣としての道を歩み始める。宝暦8年（1758年）10月28日、江戸城において、当時の将軍であった第9代将軍徳川家重に初めて拝謁する栄誉を得た。これは幕臣として本格的な活動を開始するにあたり、重要な儀礼であり、将軍への忠誠を示す場でもあった。

その後、明和4年（1767年）12月11日には、上杉家が代々務めてきた高家職に就任することとなった。高家は幕府における儀礼や朝廷との折衝などを担う重要な役職である。この高家職就任と同時に、義寿は朝廷から従五位下（じゅごいげ）の位階を授けられた。さらに、朝廷の警備などを掌る侍従（じじゅう）および、天皇の食膳などを掌る主水司（もんどのつかさ）の長官である主水正（もんどのかみ）という官職にも任じられた。これにより、名実ともに幕府の中枢に近い立場で政務、特に儀礼に関わる役職を担うこととなった。

しかし、高家職に就いてからわずか二年後の明和6年（1769年）12月10日、義寿は突然致仕（ちし）、すなわち職を辞することを表明した。高家という格式高い役職に就任した直後の致仕であり、その背景には何らかの特別な事情があった可能性も考えられるが、致仕に至った詳しい理由は史料からは明らかではない。健康上の問題、家庭の事情、あるいは他の要因など、様々な可能性が推測される。

致仕後は表舞台から退き、隠棲したと思われるが、それからおよそ十五年後の天明4年（1784年）11月9日、上杉義寿はこの世を去った。その生涯は43歳という若さで幕を閉じたことになる。当時としては必ずしも極端に短いわけではないが、高家としてさらに活躍する機会は失われたと言える。彼の死後、上杉家の家督は長男である上杉義長によって引き継がれ、高家旗本上杉家は存続していった。

上杉義寿の生涯は、家督継承から高家職就任、そして若年での致仕と死去という流れを辿るものであった。特に幼くして家督を継いだこと、そして比較的短期間で高家職から退いたことは、その生涯の特筆すべき点と言えるだろう。彼の事績に関する詳細な記録は少ないが、江戸時代中期における高家旗本の一人の足跡として、その名は歴史に刻まれている。

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