上杉義長

上杉義長（うえすぎ よしなが）は、江戸時代の中期から後期にかけて活躍した高家旗本である。

高家は江戸幕府において、朝廷との儀礼や勅使・院使の接待、諸大名の知行や官位叙任の伝達などを担当する重要な役職であり、多くは名門の家柄から登用された。上杉家もまた、かつては大大名であった上杉謙信の流れを汲む名家であり、旗本として幕府に仕えていた。義長は、安永二年（一七七三年）に父である上杉義寿の長男として生を受けた。

幼少期を過ごした後、天明四年（一七八四年）十二月二十六日、父・義寿の死去に伴い、わずか十二歳で家督を継承することとなった。若くして家を背負うことになった義長は、成長の後、寛政三年（一七九一年）十月十五日に、江戸幕府第十代将軍である徳川家治に初めて拝謁する機会を得た。これは、旗本として幕府に仕える者にとって重要な儀礼であり、正式な幕臣として認められたことを意味する。

義長の生涯における重要な転機は、文化六年（一八〇九年）四月二十四日に訪れた。この日、彼は幕府の高家職に任命されたのである。高家は、幕府儀礼の専門家として、将軍に近侍し、朝廷との関係を取り持つなど、幕府の格式を維持する上で欠かせない存在であった。高家職に就任した義長は、朝廷における官職の一つである従五位下侍従および中務大輔に叙任された。高家がこうした官職を帯びることは、幕府と朝廷の関係を示すものであった。

しかし、義長の高家職は比較的短期間に終わった。文化十一年（一八一四年）三月十九日には、その職を辞任している。約五年間の在任期間であった。高家職を辞した後、義長は家務に専念したと思われるが、その後の詳しい動向は明らかではない。

文政七年（一八二四年）十一月二十七日、彼は隠居することを決断し、家督を嫡男である義達に譲り渡した。隠居は、家長が家督を後継者に譲り、実務から退く行為であり、武家社会においては一般的な慣習であった。隠居した義長は、その後「総山」と号したという記録が残っている。この号は、彼が隠居後に用いた雅号あるいは法号のようなものであろう。

上杉義長の生涯は、上杉家という名門旗本の家督を継承し、高家として幕府儀礼の一端を担い、そして次代に家を譲るという、江戸時代の武士階級の典型的な歩みを示している。高家職という重要な役目を務めた期間は限られていたが、その経歴は幕府機構における高家の役割と、世襲された武家の家格がどのように維持・継承されていったのかを知る上で貴重な情報を提供していると言える。

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