上杉長宗

上杉長宗（うえすぎ ながむね）

上杉長宗は、江戸時代前期に高家旗本として幕府に仕えた武士です。高家とは、江戸幕府において朝廷との交渉や重要な儀式・典礼を司る役職であり、上杉家はその中でも代々この職を務める家柄の一つでした。長宗は、その短い生涯の中で、家督相続や幕府の要職への任官など、武士としての重要な節目を経験しました。

生誕と家系の背景

長宗は、万治3年（1660年）に上杉長之の長男として誕生しました。父である長之もまた高家であり、長宗は幼い頃から高家旗本の嫡男として、家柄にふさわしい教養や武芸を身につけるための教育を受けて育ったと考えられます。当時の武家の社会では、嫡男は将来家を継ぎ、主君や幕府に仕える者として、厳しいしつけと訓練を受けることが一般的でした。

幕府への出仕とキャリアの始まり

元服を済ませた長宗は、いよいよ幕臣としての道を歩み始めます。延宝3年（1675年）2月28日、数え年で16歳となった長宗は、江戸幕府の第4代将軍である徳川家綱に初めて公式に拝謁する機会を得ました。将軍への拝謁は、正式に幕府への出仕を認められたことを意味する、武士にとっては大変名誉で重要な儀式でした。この拝謁を機に、上杉長宗の幕府での公務が始まります。

将軍への拝謁からおよそ3年が経過した延宝6年（1678年）5月4日、長宗は新たな役職に任じられます。「菊間詰」と呼ばれる役職です。菊間詰は、江戸城内の特定の部屋（菊之間など）に控え、将軍に近侍する機会のある役職の一つであり、若く将来を期待される武士が任じられることが少なくありませんでした。これは、長宗が幕府内での地位を着実に高めていたことを示しています。

家督相続と表高家への列席

長宗の人生における大きな転機は、貞享元年（1684年）に訪れました。同年7月12日、父である上杉長之が死去したことに伴い、長宗は数え年25歳で上杉家の家督を相続し、当主となりました。そして、家督相続からわずか3ヶ月後の同年10月15日には、「表高家」に列せられました。表高家とは、高家の中でも特に格式が高く、将軍の面前で朝廷や公家との儀礼を取り仕切るなど、幕府の外交や儀式典礼において中心的な役割を担う役職です。家督を継いで間もなく表高家に列せられたことは、上杉家の家格の高さと共に、新当主である長宗への期待がいかに大きかったかを物語っています。

突然の早世

高家として、また上杉家の当主として、これから多くの職務を担っていくはずであった長宗でしたが、その生涯は思いがけず早く終わりを迎えます。貞享2年（1685年）3月18日、上杉長宗は病により死去しました。享年26歳という若さでした。現代の感覚では非常に若い死ですが、当時の医療や衛生環境を考慮すると、若くして病により命を落とすことは珍しいことではありませんでした。詳細な死因は明らかではありませんが、病を得て回復に至らなかったものと思われます。高家として手腕を発揮することが期待されていた矢先の出来事であり、その早世は周囲に衝撃を与えたことでしょう。

弟への家督継承

上杉長宗の突然の死去により、上杉家は新たな当主を迎える必要が生じました。長宗には、双子の弟である上杉義陳がいました。義陳は兄の死去を受けて家督を相続し、上杉家の存続と高家としての家名の維持という責務を負うこととなりました。双子の兄弟による家督の継承は、当時の武家社会においても比較的稀なケースであったと考えられます。

まとめ

上杉長宗の生涯は、高家旗本の嫡男として生まれ、順調に幕臣としての道を歩み、家督を相続して表高家に列するも、わずか26歳という若さで幕を閉じました。彼の存命期間は短かったものの、将軍への拝謁、菊間詰への任官、家督相続、そして表高家列席といった重要な出来事を経験しており、江戸時代前期における高家旗本という特殊な立場の人物が歩んだ人生の一端を示しています。その早世は惜しまれますが、双子の弟である義陳が跡を継いだことにより、上杉家は高家としての家名を保ち続けることができました。上杉長宗の名は、短いながらも幕府に出仕し、高家としての任に就いた人物として歴史に記録されています。

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