上林貞治郎

上林貞治郎：科学的社会主義を貫いた経済学者

上林貞治郎（1908年-2001年）は、日本の経済学者として、半世紀以上にわたる大学での教育活動と数々の著作を通じて、科学的社会主義の立場を貫き、多くの学生や労働者に深い影響を与えた人物です。

1908年、大阪府堺市に生まれた上林は、大阪市立第一商業学校、大阪高等商業学校を経て、1932年、大阪商科大学を首席で卒業、同大学院に進学します。大学院在学中の1933年には大阪商科大学の副手となり、その後助手、講師嘱託を経て、1939年には高商部教授、1941年には助教授に昇進しました。

日中戦争前夜には科学的社会主義の思想に傾倒し、1942年以降は、帝国主義侵略戦争への反対を訴える極秘のマルクス主義研究会を組織。この研究会は急速に拡大し、大阪商科大学は第二次世界大戦下において、最も大きな反戦運動の中心地の一つとなりました。

しかし、その活動は当局の目を逃れることができず、1943年5月、治安維持法違反容疑で逮捕されます（大阪商大事件）。2年半以上にわたる拘禁生活を強いられ、その間、自宅は空襲で焼失し、実弟や義弟、従兄弟らも戦地で亡くしました。

1945年10月、治安維持法廃止に伴い釈放され、大阪商科大学に復帰。その後、新制大阪市立大学教授となり、経済学博士号を取得、大学院でも指導にあたりました。

1960年にはフランス、ドイツ、ソ連へ在外研究員として派遣され、パリ、ミュンスター、モスクワ、ベルリンで開催された国際学術会議に参加するなど、国際的な研究活動も精力的に行いました。また、1971年には日本学術会議経営学研究連絡委員としてスイスでの国際経営学大会にも参加し、その優れた語学力を生かして発表を行いました。

1972年に大阪市立大学を定年退職後も、専修大学や大阪経済法科大学で教鞭をとり続けました。

大学や学会活動に加え、上林は、日本科学者会議、関西勤労者教育教会、日本チェコスロバキア協会など、数多くの民主団体にも積極的に関与。特に日本ドイツ民主共和国友好協会では副会長や大阪支部会長を務め、私財を投じて運動の推進に尽力しました。

晩年は故郷堺市の地域活動にも力を注ぎ、「住みよい堺市をつくる会」の代表委員や日本共産党大阪府第5区後援会会長などを務め、地域社会の発展に貢献しました。

上林貞治郎の生涯は、学問への探究心、社会正義への強い信念、そして平和への希求が一体となった、激動の時代を生きた知性と行動力の象徴と言えるでしょう。彼の活動は、現代社会においても、多くの示唆を与え続けています。

主な著書

企業及政策の理論 (伊藤書店、1943年)
生産技術論 (三笠書房、1951年)
日本工業発達史論 (学生書房、1953年)
現代企業における資本・経営・技術 (森山書店、1958年)
ドイツ社会主義の成立過程 (ミネルヴァ書房、1969年)
経営史の研究 (ミネルヴァ書房、1969年)※共著
大阪商大事件の真相；大阪市大で何が起こったか (日本機関紙出版センター、1986年)
ドイツ反ファシズム抵抗運動史 (大阪経法大出版局、1989年)
企業・経営の史的展開 (ミネルヴァ書房、1989年)※共編著
西ドイツ国家独占資本主義と労働者階級 (大月書店、1970年)※共編著

関連項目

* 大阪商大事件

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