上毛電気鉄道デハ100型電車

上毛電気鉄道デハ100型電車は、1928年（昭和3年）の上毛線開業に合わせて製造された電車です。開業から1970年代まで、上毛線の主力車両として活躍しました。後年は大手私鉄からの譲渡車両の導入により第一線を退きましたが、2両が保存され、そのうちの1両であるデハ101号は、製造から90年以上を経た現在も動態保存されています。

特筆すべきは、デハ101号が、現在日本で数少ない可動状態の吊り掛け駆動式旧型電車であるという点です。上毛電鉄本社がある群馬県前橋市へのふるさと納税の返礼品として、貸切乗車体験が提供されています。

本記事では、デハ100型電車と共に製造された、荷物合造車のデハニ50型電車についても解説します。

概要

1928年（昭和3年）11月の上毛線開業に先立ち、同年10月に川崎車輌（現在の川崎重工業車両カンパニー）でデハ101 - 104とデハニ51・52の計6両が製造されました。

車体

車体は半鋼製で、全長16m級です。デハ100型は3つの客用扉を備え、窓配置は1D5D5D1（D：客用扉）となっています。一方、デハニ50型は2つの客用扉に加え、西桐生駅寄りに荷物室と専用の荷物扉を備えています。どちらの形式も、妻面には3枚の窓が並ぶ非貫通構造で、単行運転が可能な両運転台車です。

川崎車輌は、鋼製車の開発に力を入れており、本形式の設計当時、既に2世代目の設計段階にありました。そのため、深い丸屋根やリベットの多い車体、魚腹式台枠といった特徴を持つ初期の「川造形」と呼ばれる車両群とは異なり、浅い丸屋根、リベットの少ない車体、低い窓位置など、設計が大きく変化しています。ベンチレーターは、初期の車両から継承されたお椀型と呼ばれる半球状のタイプです。

竣工当初、運転台は中央に配置され、側窓は2段上昇式でした。座席は両形式ともロングシートです。

主要機器

主電動機

各台車に芝浦製作所SE-132B（端子電圧750V時一時間定格出力74.6kW/985rpm）が2基ずつ搭載されています。駆動方式は吊り掛け駆動式で、歯数比は22:67です。このSE-132Bは、ゼネラル・エレクトリック（GE）社のライバルであるウェスティングハウス・エレクトリック（WH）社製WH-556-J6のコピー品です。

主制御器

制御回路が低電圧で動作する、電磁空気単位スイッチを用いたシンプルなHB制御器を搭載しています。上毛電気鉄道では、自社発注車、譲受車、車体更新車を問わず、ウェスティングハウス製または同型の三菱電機製HB制御器を標準的に搭載していました。そのため、機器類のローテーションが行われており、現存するデハ104号には、三菱電機製の制御器が搭載されています。

台車

本形式の最大の特徴は、川崎車輌が設計した「KO台車」にあります。一見、ボールドウィンA形のコピー品に見えるシンプルなイコライザー台車ですが、当時としては珍しく、枕ばねにコイルばねを使用し、軸受にローラーベアリングを採用した、先進的な設計でした。

当時、ローラーベアリングは気動車での採用例が増えていましたが、電車での採用はごくわずかでした。そのため、本形式での採用は注目されました。しかし、オイルダンパーが実用化されていなかったため、コイルばねのメリットは少なく、ローラーベアリングも部品供給の問題から、後にプレーンベアリングに交換されました。

運用

開業以来、長らく主力車両として使用されましたが、車体の老朽化が進み、1952年から1956年にかけて、全車両が更新改造されました。デハ100型は、3扉から2扉に、扉位置も変更され、乗務員扉が追加されました。制御車の増結に備え、中央前橋方に貫通路が設置され、運転台機器も右側片隅に移動されました。

1977年から1981年にかけて、西武鉄道からの中古車導入により、車両の標準化が進められ、デハ100・デハニ50型を含む多くの在来車が廃車となりました。

当時、上毛線では貨物輸送が残っており、電気機関車がなかったため、デハ101・104の2両が電気機関車の代用として残されました。デハ101は、貨物列車の牽引力を増すために、歯車比が低速向けに変更されました。

貨物輸送廃止後は、朝のラッシュ時に区間列車として運転され、輸送力不足を補いました。その後、1997年に定期運用を終え、デハ104は廃車となりました。

デハ101は、その後も動態保存され、年に数回の臨時列車や貸切列車、工事列車牽引機として走行しています。

デハ104は、廃車後も大胡駅に留置され、2006年に再塗装されました。現在は、イベント時に大胡車両区構内で展示されています。

2025年1月には、デハ101が車庫内で火災に遭いましたが、修理が行われています。

デハ100型は、群馬県近代化遺産に登録されています。

車体塗装

運行当初は茶色でしたが、その後、黄色、薄いオレンジ色、グレーとライトグリーンの塗り分けなど、何度か変更されました。現在は、デハ101が茶色、デハ104が黄色に塗装されています。デハ101は、内装のニス塗りが復元されています。

諸元

最大寸法（長×幅×高）：16,010mm×2,732mm×4,086mm
自重：30.4t
定員（座席）：92人（48人）
主電動機（出力×個数）：芝浦SE-132B（端子電圧750V時定格出力74.6kw）×4
制御方式：非自動間接式
台車：川崎KO形（平鋼リベット組立イコライザー台車）

歴史

1928年：開業に当たり新製投入。
1952年：デハニ50型、更新改造。ドア配置変更。
1956年：デハ100型、更新改造。従来の3扉配置を車体中央寄り2扉配置に変更。
1963年：塗装を茶色から黄色に変更。
1979年：デハ101は貨車牽引のため歯車比を低速化変更。
1980年：デハ102・103廃車。
1992年：デハ101は塗装をライトグリーン、白のラインに変更。
1995年：塗装を運行開始当時と類似の茶色（ぶどう色）に変更。
1997年：デハ104を除籍。
1997年：デハ101による1日1往復の定期運行を終了。
2006年：留置中のデハ104の整備・再塗装を実施。
2025年: デハ101が車庫内で火災。

上毛電気鉄道デハ100型電車