上海ゲットー

上海ゲットーとは

上海ゲットーは、第二次世界大戦中に日本の占領下にあった上海の虹口地区に存在した、ユダヤ人難民が居住していた地区の通称です。約1平方マイルの地域に、ナチス・ドイツの迫害を逃れてきた約2万人のユダヤ人と、10万人の中国人が共に暮らしていました。この地区は1943年に日本軍によって「無国籍難民限定地区」とされ、居住や活動が制限されましたが、ゲットーが完全に封鎖されることはありませんでした。当時のドイツ在外公館関係者や戦後のドイツ補償当局は、ナチス占領下のゲットーとは異なるとし、この呼称を不適切としています。

上海ゲットー成立の背景

1930年代、ナチス政権下のドイツでは、反ユダヤ主義政策が強化され、多くのユダヤ人が国外への脱出を余儀なくされました。しかし、当時の国際情勢は厳しく、ユダヤ難民を受け入れる国はほとんどありませんでした。その中で、ビザなしで入国できた上海は、一時的な避難場所として注目されるようになりました。

1937年、第二次上海事変により日本軍が上海を占領。ヨーロッパから逃れてきたユダヤ人たちは、国際共同租界に住み着きました。この租界は、かつてイギリス租界として設置されたもので、その後アメリカ租界、フランス租界も加わり、共同管理されていました。しかし、実質的には日本が支配しており、中華民国当局は入国審査などの権限を失っていました。この状況が、上海がビザなしで渡航できる唯一の場所となった理由です。また、上海には、古くからバグダッド系ユダヤ人やロシア系ユダヤ人のコミュニティが存在していました。

杉原千畝と何鳳山の貢献

リトアニアのカウナスで、日本の領事であった杉原千畝は、1940年から1941年にかけて、多くのユダヤ人に日本通過ビザを発行し、彼らの上海への脱出を助けました。また、ウィーンの中華民国領事であった何鳳山も、1,000人以上のユダヤ人にビザを発行し、上海への渡航を支援しました。

ゲットーでの生活

上海に到着したユダヤ人難民は、当初、貧しい虹口地区に住み始めました。言葉の壁、貧困、病気、孤立などに苦しみましたが、コミュニティ内で設立された福祉機関によって、徐々に生活は改善されました。学校や新聞が作られ、劇場やスポーツチームも活動しました。しかし、1941年12月に日本と英米が開戦すると、状況は一変します。バグダッド系のユダヤ人が抑留され、アメリカの慈善団体からの支援も途絶え、生活は再び困窮しました。

「無国籍難民限定地区」の設置

開戦後、ドイツは日本に対し、上海のユダヤ人を引き渡すよう圧力をかけたとされていますが、明確な証拠はありません。一方で、日本側は治安維持の観点からユダヤ人を監視する必要性を感じていました。1943年2月18日、日本軍は虹口地区を「無国籍難民限定地区」と定め、18,000人の難民の居住と活動を制限しました。この制限によって、食料配給制が導入され、区域外への出入りにはパスが必要となりました。しかし、制限は無国籍の居住者に限られており、中国人は自由に出入りできました。

ゲットー内では、飲食店などが営業を続けることができ、一定の自由が認められていましたが、経済状況は厳しく、心理的なストレスも大きなものでした。また、1944年からは連合国軍による空襲も始まり、多くの犠牲者が出ました。

戦後と現在

1945年9月3日、ゲットーは解放されました。その後、ユダヤ人たちはイスラエルやアメリカなどへ移住し、1949年には共産党政権が成立したため、さらに多くのユダヤ人が上海を去りました。現在、上海に住むユダヤ人はごくわずかです。イスラエル政府は、杉原千畝と何鳳山の功績を称え、彼らに「諸国民の中の正義の人」の称号を授与しました。近年では、イスラエルと中国の国交が回復し、上海ゲットーの歴史が再び注目されています。

まとめ

上海ゲットーは、第二次世界大戦中の悲劇的な歴史の一側面を象徴する場所です。ナチスの迫害から逃れたユダヤ人たちは、異国の地で厳しい生活を強いられながらも、コミュニティを築き、文化的な活動も続けました。その歴史は、困難な状況においても人間が持つ強さと連帯の力を教えてくれます。

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