上田敬博

上田敬博について

上田敬博（うえだ たかひろ）は、1971年生まれの日本の医師、医学者です。鳥取大学医学部附属病院高度救命救急センターの教授（特定任期付）を務めています。学位は博士（医学）で、兵庫医科大学にて取得しました。

特に、京都アニメーション放火殺人事件の犯人の元主治医であったことで知られています。

生い立ちと医学への道

福岡県福岡市で医師の家系に生まれた上田は、幼少期に父親の開業に合わせて北九州市へ移住しました。優秀な外科医であった父に対し、自身は劣等感を抱いていたと述べています。福岡大学附属大濠高校から九州大学医学部を受験するも不合格となり、三浪の末に近畿大学医学部へ進学しました。入学後は、父親を見返すために勉学に励みました。

大学2年生の時に阪神淡路大震災が発生し、医療支援ボランティアとして被災地を訪れたことが、医療の道に進む大きな転機となりました。当初は心療内科を志望していましたが、九州大学の医局長からの助言で、東神戸病院での研修を選択し、救急医療の道へ進むことになりました。

救急医としてのキャリア

東神戸病院での研修初日、救急搬送された心肺停止患者を救えなかったことが、上田に大きな衝撃を与え、救急医療に真剣に取り組むきっかけとなりました。その後、大阪府済生会千里病院千里救命救急センター、兵庫医科大学病院救命救急センターを経て、数々の災害医療の現場を経験しました。附属池田小事件やJR福知山線脱線事故など、多くの救急患者の治療に携わりました。

救急医として7年目からは熱傷治療を専門とするようになり、自己培養表皮を用いた広範囲熱傷の手術を成功させるなど、熱傷治療の専門医としても名を馳せました。2016年の熊本地震ではDMAT隊員として被災地へ赴き、患者の応急処置にあたりました。

京都アニメーション放火殺人事件と犯人治療

2018年4月からは母校の近畿大学病院に勤務し、翌2019年7月18日に発生した京都アニメーション放火殺人事件では、熱傷専門医として負傷者の受け入れを希望しました。事件の犯人であるA・Sは、全身の93%に熱傷を負う重体で搬送されました。上田は、Aの死亡率が非常に高いと認識しながらも、被害者や遺族のためにも「死に逃げ」させてはならないという強い使命感を持って治療に当たりました。

上田は、デブリードマン、人工真皮の貼り付け、自己培養表皮移植という高度な治療法を駆使し、複数回の手術を経て、Aの意識を回復させました。その後、Aと対話を重ね、罪に向き合うよう促しました。この治療過程は、2023年に関西テレビでドキュメンタリー番組として放送され、ギャラクシー賞奨励賞を受賞しました。

鳥取大学医学部附属病院での活動

2020年、鳥取大学医学部附属病院救命救急センター教授に就任してからは、病院の救急医療体制の立て直しに尽力しました。治療方針の徹底、ECMOの稼働頻度増加、学会発表や論文数の増加など、目覚ましい成果を上げています。2024年1月には、京アニ事件の裁判でA被告に死刑判決が下されたことを受け、記者会見で自身の医療行為に対する考えを述べました。

人物像とラグビー

上田は小学校でサッカー、中学校からはラグビーを始めました。特に、平尾誠二氏のプレーに感銘を受け、ラグビーに転向しました。大学ではラグビー部に所属せず、社会人のクラブチームでプレーしていました。ラグビーの経験は、上田の診療スタイルにも影響を与えており、患者に正面から向き合う「逃げない精神」や、チーム全体で患者を救うという「One for all, All for one」の精神は、ラグビーから得たものだと語っています。

受賞歴

2012年：カンボジア王国友好勲章 コマンドール
2022年：鳥取大学学長賞

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