下十条運転区

概要

下十条運転区（しもじゅうじょううんてんく）は、東京都北区に位置し、東日本旅客鉄道（JR東日本）東京支社が管轄していた運転士の所属基地でした。京浜東北線の東十条駅構内にその設備が設けられており、京浜東北線および根岸線の大宮駅から大船駅までの広範囲の運転乗務を担当していました。

この組織は、かつては車両も配置される大規模な下十条電車区として運営されていましたが、組織改編により運転士のみが所属する基地へと変化しました。2016年に廃止されるまで、京浜東北線の運行を支える重要な役割を担っていました。廃止後、その機能は同じ東京支社管内にある大田運輸区に統合されています。現在も、旧下十条運転区の敷地は、京浜東北線の電車の留置場所として利用されています。

歴史

下十条運転区の歴史は、その前身である下十条電車区として1932年（昭和7年）9月1日に始まりました。これは、京浜東北線の電化区間が赤羽駅から大宮駅まで延伸されたことに伴い設置されたものです。

電車区時代には、構内で鉄道事故も発生しています。1962年（昭和37年）4月17日の深夜、回送中の7両編成の電車が構内で脱線。この脱線車両が構内を跨ぐ陸橋に衝突し、陸橋の一部が崩落するという事故が起きています。

組織の大きな転換点は1986年（昭和61年）3月3日に訪れました。この日、京浜東北線に配置されていた車両は、蒲田電車区（後の大田運輸区）に所属していた車両とともに浦和電車区（現在のさいたま車両センター）へ集約されることになりました。これにより、下十条からは車両配置がなくなり、運転士のみが所属する組織として「下十条運転区」と改称されました。

その後も運転士基地として機能していましたが、JR東日本の乗務員基地再編計画の一環として、2016年（平成28年）3月25日限りで廃止されました。そして、翌26日には大田運輸区に正式に統合され、80年以上にわたる歴史に幕を閉じました。

かつての車両基地として（下十条電車区時代）

下十条電車区だった頃は、京浜東北線と山手線で運用される車両が配置されていました。しかし、1968年に品川電車区の拡張工事が完了したことに伴い、それまで下十条に配置されていた山手線用の車両は全て品川電車区と池袋電車区へ転出しました。これ以降、下十条電車区に配置されるのは京浜東北線用の車両のみとなりました。

電車区として廃止される直前の1986年時点では、最終的に京浜東北線用の103系電車が10両編成23本と予備車4両、合計234両が配置されていました。また、事業用牽引車であるクモヤ143形が1両所属していました。クモヤ143形が導入される以前には、同じく事業用牽引車としてクモヤ90形「クモヤ90005」が配置されていた時期もありました。このクモヤ90005は、後に東海旅客鉄道の浜松工場で保管された後、製造時のモハ63形（モハ63638）として復元され、現在はリニア・鉄道館で保存・展示されています。

下十条電車区に車両が配置されていた時期には、車両の側面や前面に配置区所を示す略号が表示されていました。下十条電車区を示す略号は「北モセ」でした。これは、当時管轄していた東京北鉄道管理局を表す「北」と、「下十条」を鉄道電信で表す際に用いられた電略記号を組み合わせたものです。

「モセ」という電略は、駅名などの固有名詞を2文字でユニークに表すために制定された略号です。当時の駅名の仮名遣い表記は旧仮名遣いのみであったため、「しもじゅうじょう」という音価を持つ旧仮名遣いの「しもじうぜう」や「しもぜうじゃう」といった表記が考えられます。これらの表記から元駅名を連想しやすく、かつ他の駅の電略と重複しない組み合わせとして「もぜ」が選ばれました。しかし、電信で濁音を表すには文字を要するため、「もぜ」は「もせ゛」と表記され、その際に濁点部分が切り捨てられて「モセ」が正式な電略として採用されたと言われています。ちなみに、現代の仮名遣いでの「しもじゅうじょう」の歴史的仮名遣いは「しもじふでう」とされます。

過去に下十条電車区に配置されていた主な形式には以下のようなものがありました。

72系（一部は山手線で使用）
101系（山手線のみで使用。全ての山手線車両が配置されていたわけではなく、池袋・品川両電車区にも配置されていました）
103系
185系
485系
クモヤ90形（事業用牽引車）
クモヤ143形（事業用牽引車）

構内

下十条運転区の構内は、京浜東北線の本線から引き込み線で接続されていました。主に電車の留置や簡単な点検・整備、そして過去には検修作業が行われていました。

本線側から見て、複数の番線が並んでいました。

収容線（留置線）: 1番線から5番線、そして11番線が車両の留置に使用されていました。ただし、11番線は普段はあまり使用されず、乗務員の訓練などで利用されることがあったようです。
洗浄線: 6番線と7番線は洗浄台が設置されており、車両の洗浄に使用されていました。
整備線: 8番線から10番線には検修庫が併設されており、車両の整備が行われていました。

かつて整備線に併設されていた検修庫では、交番検査や台車検査といった比較的規模の大きな検修作業も実施されていましたが、車両配置の廃止や組織の改編に伴い、その機能は縮小されました。2021年にはこの検修庫も解体されています。現在は、構内で実施される作業は主に列車が出庫する前に行われる出区点検のみとなっています。

これらの収容線や整備線の反対側には、本線との間で車両の入換を行うための引き上げ線が2線設けられていました。この引き上げ線付近には、車両の側面などを自動で洗浄するための車両洗浄装置も設置されていました。

また、下十条電車区だった頃には、車両に対する改造工事も行われていました。例えば、京浜東北線用の209系0番台4扉車や同500番台の先頭車の側面窓を開閉可能な構造に改造する工事は、この下十条電車区で実施されたことが知られています。

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