下太田貝塚

下太田貝塚：縄文人の「死者の谷」

下太田貝塚は、千葉県茂原市下太田に位置する、縄文時代中期から晩期にかけての低湿地遺跡です。房総丘陵の北東端近くの埋没谷に形成されたこの場所からは、200体を超える人骨とともに、骨角器のペンダントや腕輪など、数多くの遺物が出土しています。この遺跡は茂原市の指定史跡となっています。

墓制の変遷から見る縄文社会

下太田貝塚は、縄文時代の人々にとって「死者の谷」としての役割を果たしていたと考えられています。特に重要なのは、中期後葉・後期前葉・後期中葉の三期にわたる墓域が層位的に検出されたことです。これにより、埋没谷に営まれた墓域が時代とともにどのように変化していったのかを詳細に追うことができます。

縄文時代中期には、放射状に円を描く墓地が見られます。ここでは、人の他にイノシシやイヌの幼獣も埋葬されており、これらがペットとして飼われていた可能性を示唆しています。後期前葉になると、乳幼児と少年以上というように、年齢別に墓域が分けられていた可能性が高まります。また、土器棺に遺体を納めて再葬する習慣も見られました。

しかし、後期中葉になると、明らかに異なる二つの埋葬形態が現れます。一つは、長楕円形の土坑墓中に一体ずつ埋葬する方法で、伸展葬が主体です。これらの墓は、方形または長方形の範囲内に密集して配置されています。もう一つは、楕円形を呈する大小3基の土坑中に大量の遺骸が集積されているものです。このことから、埋葬に際して集団的な区別が行われていた可能性が考えられ、従来の「縄文時代は平等で身分制度はなかった」とする説に一石を投じています。

ミトコンドリアDNA分析による新たな知見

下太田貝塚から得られた多くの人骨サンプルは、茨城県取手市の中妻貝塚出土の人骨とともに、ミトコンドリアDNA分析という新しい手法を用いた研究の対象となりました。その結果、中妻貝塚と下太田貝塚の土坑人骨で、同一のハプロタイプが半数を占めることが判明しました。このことは、縄文時代後期の房総半島地域において、母系親族を中心とした居住が行われていた可能性を示唆しています。また、両集落間で共通のハプロタイプが認められたことから、両集落間になんらかの関係があったと考えられます。

さらに、両貝塚で判別されたものと同一のハプロタイプがアジア各地の現在の人々にも見られることから、縄文人の起源を考える上で新しい知見が得られたとする指摘もあります。

下太田貝塚は、縄文時代の埋葬文化や社会構造、さらには縄文人のルーツを探る上で、非常に重要な遺跡であると言えるでしょう。

参考文献

文化庁 『発掘された日本列島 '99』 朝日新聞社、1999年、ISBN 4-02-257394-5、18-19頁
雄山閣編集部 『葬墓制 (シリーズ縄文集落の多様性) 』 雄山閣、2010年、ISBN 978-4-639-02143-8、151-152頁

関連項目

千葉県の貝塚の一覧

外部リンク

歴史・文化財 下太田貝塚 - 茂原市ホームページ

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