不動倉

不動倉（ふどうそう）とは

不動倉とは、律令制度において、稲などの穀物を収納していた正倉が満杯になった際に、国司と郡司が検封作業を行い、封印した倉庫のことを指します。この不動倉に満たされた稲穀は、特に「不動穀（ふどうこく）」と呼ばれていました。

不動倉の成立と役割

不動倉の制度は、和銅元年（708年）に太政官符によって稲穀の貯蔵と不動倉の設置が奨励されたことに始まります。これにより、毎年備蓄が行われるようになり、およそ30年後の天平年間には、田租収入の約30年分（年間収穫量とほぼ同量）もの稲穀が貯蔵されていたと推測されています。これは、各令制国の正税帳から窺い知ることができます。

通常、国衙や郡衙に納められた租は、「動用倉（どうようそう）」または「動倉」と呼ばれる倉庫に収容され、「動用穀」として通常の出納や非常時の備えに用いられました。しかし、動用倉が満載状態になり、一定期間を経ると、各国は独自の判断で動用倉を封印し、不動倉としたのです。

不動倉の鑰（鍵）は、都の太政官に提出され、厳重に保管されました。不動倉を開封する必要が生じた場合には、「不動倉開検申請解」と呼ばれる申請書を太政官に提出し、許可を求めました。許可が下りると、「不動開用符」または「不動充符」と呼ばれる太政官符が交付されるとともに、鑰が返送され、初めて開封が認められました。

不動倉の問題点と対策

倉庫令には、倉庫内の穀物を一定期間ごとに中身を入れ替え、腐敗を防止する規定がありました。しかし、不動倉は封印されるとむやみに動かすことが禁じられていたため、長期間放置された結果、中の不動穀が腐敗してしまう事態が頻発しました。

この問題に対処するため、天平12年（740年）には、一定年限ごとに中身を入れ替える際に、太政官符と鑰の交付を受けることが義務付けられました。さらに、国司の引継ぎの際に不動倉の引継ぎを巡るトラブルが続いたことから、天平宝字7年（763年）には、国司交代の際に必ず開封の手続きを行い、中身を確認するとともに、入れ替えを行うことが定められました。

不動倉の衰退と形式化

律令制度の崩壊とともに、不動穀の転用や流出が相次ぎ、9世紀末頃には不動倉は有名無実化しました。しかし、不動穀引継のための儀式は、実態を伴わないまま、国司の制度が存在していた南北朝時代頃まで継続していたと考えられています。

不動倉の制度は、当初は国家の財政を支える重要な役割を担っていましたが、時代の変化とともに形骸化し、最終的には形式的なものとして残存することになりました。

参考文献

* 黒板勝美 編「類聚三代格」『国史大系 第25巻 新訂増補』国史大系刊行会、1936年。https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/3431640/1/207。

もう一度検索