不孝

不孝（ふこう、ふきょう）

「不孝」という言葉は、時代と文化によってその意味合いが大きく異なる概念です。古代の法体系における犯罪から、中世の家族関係の断絶、そして現代における道徳的な非難まで、その変遷を辿ります。

律における「不孝」罪

秦以前

春秋・戦国時代の刑法は詳細不明ですが、『孝経』には「三千の罪で不孝より重い罪はない」と記されています。『周礼』にも「不孝の刑」が見られ、秦代に不孝が死刑相当であったことから、これらの記述が実際の刑罰を反映していた可能性があります。

秦の律

睡虎地秦墓竹簡の発見により、秦の律では不孝が死刑に値する罪として扱われていたことが判明しました。親が子を不孝で告発した場合、告発者の意向で死刑が執行されたようです。どのような行為が不孝にあたるかの明確な規定はなく、親の判断が重視されたと考えられます。

漢の律

張家山漢簡によると、漢の律では不孝は棄市（斬首の上、さらし首）とされていました。他人を不孝にさせた者は黥（いれずみ）の上、重い懲役刑に処されました。ただし、一定以上の爵位を持つ者やその妻は黥を免除されました。子が親を扶養しないことが不孝とみなされたようですが、秦代と同様に、親の告発によって容易に死刑にできたようです。後漢時代には刑が緩和され、儒教の影響が指摘されています。

漢代の不孝事件

『漢書』や『後漢書』には、以下のような不孝事件が記録されています。

父を殺そうとしたり、謀反に巻き込もうとした。
父を告発した、または告発された。
養母を妻とし、暴行を加えた。
父を毒殺しようとした（事実無根の可能性あり）。
母を誣告した。
継母を憎んだが、悔いて自首した。

秦漢律から唐律へ

秦漢から唐への律の変化は詳細不明ですが、北斉では不孝は減刑や贖罪の対象外となる重罪とされていました。唐の時代には、不孝は十悪の一つとして位置づけられ、日本でも八虐の一つとなりました。秦漢の不孝は一つの犯罪でしたが、唐では様々な行為が個別の犯罪とされ、それらをまとめる類型が不孝となりました。量刑は秦漢では死刑でしたが、唐以降は死刑にはなりませんでした。

唐の律

唐律では、不孝は複数の罪をまとめた犯罪類型として、十悪の一つに数えられました。

日本の律

大宝律令・養老律令では、不孝は八虐の一つとされました。親に対する訴訟、呪詛、罵詈、無断での戸籍・財産の分離、喪中の婚姻・娯楽、死を悲しまない、死を偽って妾と通じるなどの行為が不孝とされ、特に親への訴訟は死罪とされました。中国の律令法にあった扶養義務の欠如は、日本の律令法には導入されませんでした。

中世日本の親子関係断絶

中世日本では、親（祖父母）が子（孫）との関係を絶つ行為を不孝と呼びました。教令違反、孝養の欠如、不行跡、命令違反、敵対行為などが理由とされ、親の主張だけで認められました。不孝とされた子は家から放逐され、家督相続権や財産相続権を剥奪されました。義絶もほぼ同様ですが、義絶状の作成と連座の免除に違いがありました。室町時代には勘当が同様の効果を持つようになり、不孝という言葉は使われなくなりました。江戸時代以降は、親が子との関係を絶つことを「勘当」、親族間の縁戚関係断絶を「義絶」と呼ぶようになりました。

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