不思議な少年 (小説)

不思議な少年（The Mysterious Stranger）

『不思議な少年』は、アメリカの作家マーク・トウェインの作品で、彼の晩年の思想やペシミズムが色濃く反映されています。この小説は、1890年頃から執筆が始まり、1910年にトウェインが亡くなるまで何度も改稿が重ねられました。作品に残された複数の原稿はどれも未完成であるものの、共通して「サタン」を象徴する少年の登場が特徴です。

様々な原稿の進化

トウェインが最初に作成した原稿は「The Chronicle of Young Satan」と名付けられ、1702年のオーストリアの村を舞台にしています。この原稿では、サタンの甥である少年が村で騒動を起こす様子が描かれていましたが、中断してしまっています。次に書かれた「Schoolhouse Hill」では舞台を『トム・ソーヤーの冒険』に合わせ、トムやハックルベリー・フィンが登場しますが、内容は短いものにとどまります。

第三の版として「No. 44, The Mysterious Stranger」が挙げられます。この版では、舞台は1490年のオーストリアの古城に設定され、少年は「第44号」と名乗り、印刷工場での生活が描かれます。このバージョンは量が多く、結末まで記載されていますが、やはり完成にはいたりませんでした。

トウェインの死後、彼の遺産管理人アルバート・B・ペインが1916年に『Mysterious Stranger, A Romance』として出版しました。この作品は、ペインが最初の原稿を基に、途中から発表されなかった結末を追加したものです。1937年にペインが亡くなると、遺産はバーナード・デヴォートに引き継がれ、トウェインの原稿が公開されることになりました。1960年代になって、ペインの版が大幅に編集されたものであることが明らかになりました。

1982年、カリフォルニア大学では『No. 44, The Mysterious Stranger』を遺稿全集の一部として発表し、その本来の姿が示されることとなりました。

物語のあらすじ

この作品のあらすじをペインによる編集版に基づいて見ていきましょう。物語は1590年5月、オーストリアのエーセルドルフという村で始まります。ここに「サタン」と名乗る少年が現れ、彼が次々と展示する不思議な力に村の人々は驚きます。ある日、ピーター神父が通りかかり、財布を落とします。サタンはその財布を拾い、たくさんの金貨を返しますが、実はこの金貨は占星術師のもので、ピーター神父は窃盗の罪を着せられて投獄されてしまいます。

その後、村では様々な事件が起こり、サタンはその様子を見ながら人間を嘲笑します。ピーター神父の裁判が始まりますが、神父には非常に不利な状況が続きます。ところが、サタンの機転により神父は無罪となり、彼はサタンが与えた嘘の判決を信じ込むことで、自分を皇帝だと思い込む結果に至ります。サタンの言葉によれば、真の幸福を得るためには、時には正気を失うことも必要だとされています。

登場人物

この物語にはいくつか重要な登場人物がいます。サタンはその甥にあたる少年で、不思議な力を持っています。語り手であるテオドールはオルガン奏者の息子で、彼の親友ニコラウスは判事の息子です。ピーター神父は村の聖職者で、他にも占星術師や、彼の姪であるマーゲットなどが物語に絡んでいきます。

日本語訳

日本語においては、複数の翻訳版が存在します。中野好夫訳の岩波文庫版や、大久保博訳の角川書店版、また山本長一・佐藤豊訳による「マーク・トウェインコレクション」にも収められています。これらの翻訳は、原作の魅力を伝える重要な役割を果たしています。

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