不滅の時間

オペラ『不滅の時間』

作品概要

『不滅の時間』（原題: The Immortal Hour）は、20世紀初頭に英国の作曲家ラトランド・ボートン（Rutland Boughton, 1878-1960）によって作曲された全二幕のオペラ作品です。このオペラのために、ボートン自身がウィリアム・シャープ（William Sharp, 1855-1905）が「フィオナ・マクラウド（Fiona Macleod）」という筆名で発表した同名の戯曲を基に翻案し、台本を書き上げました。1914年に初演されて以来、特に発表当初には大きな成功を収め、ボートンの代表作の一つとして広く認知されています。

ジャンルと類縁性

本作は、その主題や雰囲気から「フェアリーテール・オペラ」（Fairytale Opera）として分類されます。すなわち、おとぎ話や神話、伝説といった非現実的な題材を扱ったオペラ作品です。魔法や超自然的な存在が登場し、神秘的な世界観を描く点において、アントニン・ドヴォルザークの傑作『ルサルカ』や、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの遺作となった『魔笛』といった、同様のテーマを持つ先行作品との間に共通点が見られます。しかし、『不滅の時間』は、その根底にあるケルト神話の世界観に基づいた、独自の魅力を放っています。

物語と登場する精霊たちの描写

物語の中核をなすのは、人間の定命の世界と、魔法に満ちた異界に住まう精霊たちの世界の間の関わりです。特に重要な役割を担うのは、この物語に登場する精霊、いわゆる妖精たちです。彼らは、一般的に想像されるような、子供じみたいたずら好きや無邪気な存在とは一線を画しています。本作で描かれる妖精たちは、極めて誇り高く、強力な力を持つ存在です。彼らは定命の人間から畏怖される対象であり、時として人間の男女の愛情や絆に介入し、それを引き裂くほどの強大な力を持つ、文字通り不滅の半神的な存在として描かれます。物語は、異界から人間界に迷い込んだ美しい妖精エーディンと、人間界の王フォーモールの間のロマンスを中心に展開しますが、エーディンを追って異界から現れる妖精の王ミディールの存在が、物語に大きな波乱をもたらします。特に、エーディンが人間の世界に入り込み、妖精であるミディールが彼女を連れ戻そうとするという基本的な筋書きは、古代ギリシャ神話における有名なオルフェウスとエウリュディケーの伝説との類似性を指摘されることがあります。この類似性は、文化圏を超えて存在する、異界への旅や愛する者を取り戻そうとする普遍的なテーマを浮き彫りにしています。

音楽スタイルとその影響

ラトランド・ボートンの音楽は、『不滅の時間』が持つ神秘的で幻想的な雰囲気を巧みに表現しています。音楽的なアプローチにおいては、リヒャルト・ワーグナーの音楽劇で顕著に見られる示導動機（ライトモティーフ）の使用や、作品全体を通じて特定のテーマや概念を音楽によって象徴的に表現する手法が取り入れられています。これにより、登場人物の感情や物語の展開、異世界の雰囲気が音楽によって深く掘り下げられ、聴き手に示唆を与えます。しかし、ボートンの音楽は単にワーグナーの影響下に留まるものではありません。作品の源泉がアイルランドの古い説話、特に『エーディンへの求婚』に基づいていることから、この説話が持つケルト文化の起源を音楽にも反映させています。具体的には、アイルランドの民俗音楽に特徴的な旋法（モード）やリズムが効果的に用いられ、作品に独特の響きと雰囲気を加えています。ワーグナー的な壮大さと構成力に、ケルトの地に根差した古来からの神秘的な響きが融合することで、『不滅の時間』は他にはない独自の音楽世界を築き上げています。これは、当時の英国における国民音楽派の動き、すなわち自国の伝承や文化に根差した音楽を追求する傾向とも関連付けられるでしょう。全体として、ボートンの音楽は、物語のファンタジー性を高めると同時に、登場人物の内面や異世界の描写を豊かに彩っています。

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