世界の王

「世界の王」（シュメール語: lugal ki-sár-ra, lugal kiš-ki, アッカド語: šarru kiššat māti, šar-kiššati, šar kiššatim）は、古代オリエント世界の君主たちが自らの権威を誇示するために用いた称号の一つです。この称号は単なる王位の名称ではなく、「四方世界の王」といった類似の称号と併用されることで、その支配が全世界に及ぶと主張する、修辞的な意味合いを持っていました。

この称号を最初に使用したのは、アッカド王サルゴンとされています。サルゴンは、紀元前24世紀頃にアッカド帝国を築き上げ、メソポタミア全域を支配下に置いた人物です。彼の軍事的な成功と政治的な手腕は、後世の君主たちに大きな影響を与え、「世界の王」という称号もまた、彼の権威を象徴するものとして受け継がれていきました。

その後、紀元前2千年紀から1千年紀にかけてのバビロニア、アッシリア、ペルシアといった古代オリエントの主要な国家の君主たちが、この称号を自らのものとして使用しました。これらの君主たちは、それぞれが広大な領土を支配し、強大な軍事力を持っていましたが、「世界の王」という称号を用いることで、自らの権威をさらに高め、周辺諸国に対する影響力を強化しようとしたのです。

「世界の王」という称号の語源は、古代都市キシュにあると考えられています。キシュは、シュメール時代において、北方を流れる河川を利用した戦略的な要衝として、他の都市国家よりも卓越した地位を築いていました。キシュの王は、その地理的な優位性から特別な地位を占め、周辺地域に対する影響力も大きかったと考えられます。実際に、キシュ王メサリムがラガシュとウンマの間の戦争を仲介したという記録も残っており、キシュ王が単なる都市国家の支配者以上の存在であったことを示唆しています。

このように、「世界の王」という称号は、単なる王位の名称ではなく、古代オリエント世界の君主たちが自らの権威を誇示し、支配を正当化するために用いた、象徴的な意味合いを持つ言葉でした。この称号の使用は、古代オリエント世界の政治的な状況や、君主たちの世界観を理解する上で、重要な手がかりとなります。

参考書籍
* Josette Elayi (2017). Sargon II, King of Assyria. SBL Press. ISBN 978-0884142232

もう一度検索