中アッシリア時代

中アッシリア時代：古代アッシリア帝国の勃興と変遷

中アッシリア時代は、古代アッシリアの時代区分の一つであり、アッシリア史において初期アッシリア、古アッシリアに続く3番目の段階です。具体的には、紀元前1363年頃にアッシュル・ウバリト1世が即位し、アッシリアが領域的な王国として勃興してから、紀元前912年にアッシュル・ダン2世が死亡するまでの時代を指します。

中アッシリア時代の概要

この時代、アッシリアは初めて有力な帝国となり、拡大と縮小を繰り返しながらも、北メソポタミアの支配的な勢力であり続けました。アッシリア王と国家神アッシュルの台頭を含め、社会的、政治的、宗教的に重要な発展が見られました。

帝国の起源と拡大

中アッシリア帝国の起源は、古アッシリア時代の大部分を都市国家として過ごし、その後ミッタニ王国の支配下にあったアッシュル市にあります。アッシュル・ウバリト1世の下で、アッシリアは拡大を開始し、古代オリエントにおける大国としての地位を主張し始めました。

アダド・ニラリ1世、シャルマネセル1世、トゥクルティ・ニヌルタ1世の時代には、アッシリアは一時的にメソポタミアにおける覇権を確立しました。特にトゥクルティ・ニヌルタ1世の治世は最盛期であり、バビロニアを征服し、新たな首都カール・トゥクルティ・ニヌルタを建設しました。

衰退と復興

紀元前1200年のカタストロフと呼ばれる後期青銅器時代の大規模な破壊の影響をほとんど受けなかったアッシリアですが、トゥクルティ・ニヌルタ1世の暗殺後、王朝内の衝突が生じ国力が低下しました。しかし、アッシュル・ダン1世やアッシュル・レシュ・イシ1世などの王はバビロニアへの遠征を繰り返し行い、ティグラト・ピレセル1世の時代には、広範囲への遠征と征服によって勢力を取り戻しました。

ティグラト・ピレセル1世の死後、再び衰退の時代に入りましたが、アッシュル・ダン2世の下で再び回復へと向かい、アッシリア本国の周辺地域に広範な遠征を行いました。このアッシリアの再拡大の開始は、中アッシリアから新アッシリア帝国への転換点とされています。

神学と政治の変化

中アッシリア時代には、アッシュル神の役割に重要な変化が見られました。都市アッシュルの擬人化・神格化によって誕生した神アッシュルは、シュメルのパンテオンの最上位を占めたエンリル神と同格となり、農耕の神から軍隊の神へと性質を変化させました。また、アッシリアの君主たちは、iššiak（副王 / 総督）からšar（王）へと称号を変え、独裁的な支配者としての地位を確立しました。

中アッシリア時代の歴史

形成と勃興

アッシリアは、ミッタニ王国の宗主権下からアッシュル・ウバリト1世の下で独立し、領域国家となりました。彼はšar（王）という称号を用い、エジプトやヒッタイトの王たちと同等の大王としての尊厳を主張しました。アッシリアの勃興は、ミッタニの衰退と崩壊と密接に関連していました。

最初の拡大と統合

アダド・ニラリ1世、シャルマネセル1世、トゥクルティ・ニヌルタ1世の治世下で、アッシリアは地域的勢力としての地位を確立しました。アダド・ニラリ1世はミッタニ王国を破り、属王として貢納を納めさせました。シャルマネセル1世は、ヒッタイトとの緊張関係を高め、レヴァントにあったヒッタイトの属国と戦いました。トゥクルティ・ニヌルタ1世はヒッタイトをニフリヤの戦いで破り、北メソポタミアにおけるヒッタイトの影響力を終焉させました。

衰退の時代

トゥクルティ・ニヌルタ1世の暗殺後、王室の内紛が生じアッシリアの力は大きく損なわれました。エンリル・クドゥリ・ウツルの治世中、ニヌルタ・アピル・エクルがバビロニアの支援を得てアッシリアに進軍し、エンリル・クドゥリ・ウツルを破りました。ニヌルタ・アピル・エクルが王となりトゥクルティ・ニヌルタ1世の直系王統は途絶えましたが、彼の子アッシュル・ダン1世の治世においては幾分状況は改善しました。

再拡大と統合

アッシュル・レシュ・イシ1世の息子ティグラト・ピレセル1世は、中アッシリア帝国を再び支配的な勢力として確立しました。彼はムシュキを破り、北シリアの諸都市を再征服し、アルメニアの高地に住むナイリの人々に対しても戦争を行いました。

再衰退の時代

アッシュル・ベル・カラの息子エリバ・アダド2世に続く数世代の王は、過去の王たちの成果を維持することができず、アッシュル・ベル・カラの死の後に始まった衰退の時代は前10世紀半ばまで続きました。アッシリア周辺の地では大きな地政学的変化が引き起こされ、アラム人の勢力が拡大しました。前1000年までにアッシリアの勢力は最低地点まで低下しました。

アッシリアの「レコンキスタ」の始まり

アッシュル・ダン2世は中アッシリア時代の記録の乏しい2度目の衰退期を実質的に終わらせました。彼は北東および北西方面への遠征に注力し、アッシリアの勢力の復活を描き出しました。アッシュル・ダン2世の遠征によって、アッシリア勢力の実質的な再建と拡大への道筋が舗装され、彼の即位は伝統的に新アッシリア帝国の始まりとして取り扱われています。

政府

王権

中アッシリア時代の王たちは、古アッシリア時代の王たちと異なり、単独の支配者としての性質を強く持ちました。アッシリアの勢力が増大すると、アッシリア王たちはより独裁的な意味合いの強い洗練された王号を使用し始めました。軍事指導者としての役割に加えて、アッシリア王たちは宗教的に重要な存在でもありました。

王宮と従者

中アッシリア時代の王宮は、王権の重要なシンボルであり、アッシリア政府の中枢となる機関でした。宮殿内の生活と政治は厳格な規則に従っており、役人たちの参事会によって監督されました。現存する宮廷の法令では、宮殿に住む人々の規則と日常生活が取り扱われています。

行政

アッシリア王は人と神の間の仲介者であると認識されており、行政の長でした。帝国は属州に分割され、各属州は属州総督が統括しました。アッシリアは「イルク」制度と呼ばれる制度も採用していました。

税と徴用

王たちによる大規模な建設事業や軍事活動を可能とするため、中アッシリア時代のアッシリアは洗練された人員採用・管理のシステムを採用していました。この時代の税制については未だ完全には理解されていません。

軍事

中アッシリア時代には常備軍は存在せず、軍事行動に用いられる兵士たちは必要な時にだけ動員されました。歩兵は sạ bū ša kakkē（武器部隊）とsạ bū ša arâtē（盾持ち部隊）に分けられていたと見られています。戦車は別部隊であり、ティグラト・ピレセル1世の時代から大規模に用いられるようになりました。

社会

人々と文化

現存している遺物が限られているため、中アッシリア時代の社会生活や生活環境に関する情報で利用可能なものは通常、社会・経済的なエリート層や上流階級のものに限られます。人口の大半を占める非上流階級の生活水準は遥かに低かった。

家族と女性の地位

家族の規模は比較的小さく、家族の構成員に加えて、多くの世帯が多種多様な使用人を雇っていました。中アッシリア時代の女性の権利は、古アッシリア時代よりも幾分後退しているように見えます。

エスニック・グループ

アッシリア帝国の拡大は、征服された人々の追放および移動と合わさって、アッシリア本国のアッシリア人と外国人の接触をもたらし、その関係性を密接なものとしました。古代アッシリア文明は何をアッシリア人を見なすかという点について比較的開放的でした。

言語

古代アッシリア人が会話や筆記に主として用いていた言語であるアッシリア語はセム語（現代のヘブライ語やアラビア語と親類関係がある）の1つであり、南メソタミアで使用されていたバビロニア語と密接な関係がありました。

道路網

アッシリア帝国の洗練された道路網は中アッシリア時代に作られました。中アッシリア時代の道路網は主として既存の道路沿いに設備を建設することで構築されました。この道路網によって帝国内の通信経路を改善したことは、中アッシリア時代のアッシリアの成功の重要なファクターでした。

宗教

アッシリア人は南メソポタミアのバビロニア人と同じパンテオンの神々を崇拝しました。アッシリアの主神は国家神アッシュルでした。アッシュル神は軍神として現れ、正しき王笏をもって「アッシュルの地」を拡大するよう命じました。

出典

参考文献

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