アッシュル

アッシュル：栄華を誇った古代都市と、その危機

イラク北部、ティグリス川西岸に位置するアッシュルは、紀元前2600年頃からおよそ4000年にわたって繁栄した古代都市です。古アッシリア王国、中アッシリア王国の中心地として栄え、新アッシリア時代には首都の座を他の都市に譲りましたが、アッシリア国家の宗教的中心地としてその重要性を保ち続けました。現在、その遺跡はカルアト・シェルカートとも呼ばれ、サラーフッディーン県のアル＝シェルカート地区に位置しています。

アッシュルの歴史：建国から衰退まで

アッシュルへの定住は紀元前3000年紀半ばに始まったと推測されています。初期のアッシュルは、アッカド王朝やウル第3王朝の支配下にあったと考えられていますが、その詳細は不明な点が多く残されています。しかし、紀元前21世紀には独立した都市国家としての体裁を整え、アッシュル神を中心とした独自の宗教文化を形成していきました。

紀元前20世紀頃にはプズル・アッシュル1世が王となり、アッシュル神殿、アダド神殿、イシュタル神殿などの建設が盛んに行われました。その後、ウル第3王朝の崩壊後、周辺ではアムル系王朝が台頭。アッシュルもその影響を受けつつ、交易の中継地として繁栄しました。特に、アナトリアとの交易ルートに位置していたことは、アッシュルの経済的発展に大きく貢献しました。

紀元前19世紀末には、シャムシ・アダド1世が北部メソポタミアに巨大な王国を築き上げました。この王国は最初の「アッシリア帝国」と呼ばれることもあります。しかし、その後ハンムラビによる征服を受け、アッシュルはバビロンの支配下に置かれました。

ハンムラビ死後の混乱期を経て、アッシュルは中アッシリア時代の到来とともに再び勢力を伸ばします。ミッタニの支配下にあった時期もありましたが、アッシュル・ウバリト1世の時代に独立を取り戻し、ヒッタイトを撃退してアッシリアの中興を成し遂げました。その後、アッシュルはヒッタイト、バビロニアと戦い勝利し、ミッタニの旧領土を併合するなど、広大な帝国を築き上げました。シャルマネセル1世は新たな首都ニムルドを建設し、トゥクルティ・ニヌルタ1世はアッシュルのイシュタル神殿を改修するなど、アッシュル市は着実に発展しました。

新アッシリア時代に入ると、アッシュルの首都としての役割はカルフ（ニムルド）、ドゥル・シャルキン、ニネヴェといった都市に譲られていきました。しかし、アッシュルはアッシュル神を祀る宗教の中心地として、依然として帝国において重要な地位を保ち続けました。

紀元前612年、メディア人と新バビロニア人の連合軍によってアッシュルは破壊され、衰退の一途を辿りました。その後、アケメネス朝ペルシア帝国、パルティア帝国の支配下に入ります。パルティア時代には、一時的にアッシュルは独立した可能性も示唆されています。

サーサーン朝時代になると、アッシュルはシャープール1世によって破壊され、以後、その重要性は失われ、14世紀頃には居住地として放棄されました。

アッシュル遺跡：世界遺産と危機

アッシュル遺跡は、2003年にユネスコの世界遺産に登録されましたが、同時に危機遺産リストにも登録されています。その理由は、近隣でのダム建設計画による遺跡の水没の危険性と、2015年のISILによる占領と遺跡への破壊行為の恐れがあったためです。

現在、ダム建設は中断されていますが、ISILによる破壊行為の影響や、今後の遺跡保全のための課題は依然として残されています。アッシュル遺跡は、古代オリエントの歴史を理解する上で重要な遺跡であり、その保全は国際的な協調と努力を必要とする重要な問題です。

アッシュル遺跡からの発見

アッシュル遺跡からは、数多くの楔形文字粘土板や、建築物、彫刻などの遺物が発見されています。これらは、古代アッシリアの歴史、宗教、文化を知る上で貴重な資料となっています。これらの遺物の多くは、ベルリンのペルガモン博物館などに収蔵されています。1898年からドイツを中心とした考古学調査が続けられており、16,000点以上の楔形文字粘土板が発見されるなど、その成果は多大なものがあります。これらの発掘調査は、アッシュルの歴史と文化を詳細に明らかにする上で大きな役割を果たしてきました。

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