中島利博

中島利博

中島 利博（なかじま としひろ）は、1964年11月生まれの日本の医学者です。医学博士号を取得しており、長年にわたり国内外の著名な研究機関や大学で教鞭を執り、多岐にわたる研究活動を行ってきました。

経歴

1989年に鹿児島大学医学部を卒業後、医師としてのキャリアをスタートさせました。その後、アメリカ合衆国のソーク研究所での研究留学を経て、1997年には母校である鹿児島大学より博士（医学）の学位を授与されています。帰国後、ハーバード大学医学部でのインストラクター職や、筑波大学応用生物化学系での講師を務めるなど、国際的な経験を積みました。2000年代には聖マリアンナ医科大学で難病治療研究センターの助教授、後にゲノム医科学研究部門の教授として研究・教育に携わりました。2010年からは東京医科大学医学総合研究所の教授として、現在に至るまで研究活動を続けています。

主な研究業績と受賞

中島教授の主要な業績の一つに、関節リウマチの原因に関わるタンパク質の特定があります。特定のE3ユビキチンリガーゼが関節リウマチの発症に深く関与していることを発見し、そのタンパク質を「シノビオリン（Synoviolin）」と命名しました。この発見はリウマチ研究における重要な進展として評価され、日本リウマチ学会賞、日本内科学会奨励賞、ノバルティス・リウマチ医学賞など、多くの学術賞を受賞しています。

キルギス共和国での活動と国際貢献

2006年に初めてキルギス共和国を訪問して以来、同国におけるリウマチ熱およびそれに起因するリウマチ性心疾患の蔓延に対して、調査研究、治療、予防活動を展開してきました。これらの貢献が認められ、2008年にはキルギス共和国の医療分野に関する国家顧問に任命されました。さらに、2015年には同国健康大臣より日本人として初めて特別栄誉賞を授与されています。2016年には、これも日本人として3人目となるキルギス共和国名誉領事に就任し、両国の医療・外交における架け橋としての役割も担っています。

ヒトパピローマウイルスワクチン（HPVワクチン）に関する研究と議論

中島教授は、一般財団法人難病治療研究振興財団が組織した「ヒトパピローマウイルスワクチン（HPVワクチン）副反応病態究明チーム」に参加し、病因解明分野においてゲノム解析を担当しました。この研究に関連して、2016年11月11日にイギリスの科学誌『サイエンティフィック・リポーツ（Scientific Reports）』に責任著者として論文を発表しました。この論文では、血液脳関門を人工的に開いたマウスにHPVワクチンを大量に投与した際に、運動障害や脳障害が引き起こされたとする実験結果が報告されました。この結果は、当時報告されていた様々なHPVワクチンの副作用に対する科学的根拠となりうる可能性を示唆したため、日本国内だけでなく、世界の公衆衛生関係者の間で大きな注目を集め、警戒を招きました。

しかし、論文発表後、他の複数の研究グループから、実験手法に対する疑問が呈されました。具体的には、マウスへのHPVワクチンの投与量が過剰であることや、血液脳関門を開くために百日咳毒素を共投与していることなどが問題点として指摘されました。これらの指摘を受け、『サイエンティフィック・リポーツ』を発行するネイチャー・パブリッシング・グループ（Nature Publishing Group）は論文の内容を調査しました。その結果、2018年5月11日に当該論文の撤回を発表しました。撤回理由として、大量のHPVワクチンと百日咳毒素を同時に投与する手法は、HPVワクチン単独が神経学的な損傷を引き起こすかを判定する上で適切ではない、すなわち「実験手法が研究目的に対して適切でない」と判断されたことが挙げられました。

論文撤回に先立ち、『サイエンス（Science）』誌の取材に対し、中島教授は自身の用いた実験手法は「マウスを使った同種の研究で一般的に用いられている」と主張しました。また、撤回決定後、朝日新聞の取材に対しては、「撤回は一方的」であるとの見解を示し、ワクチンの投与量については「薬の安全性の試験の基準に基づいて」おり、百日咳毒素の使用についても「血液脳関門を一過性で開くために使っているだけ」であるとコメントし、自身の実験手法の正当性を訴えました。

著書

『世界の発酵乳 発酵乳の文化・生理機能 モンゴル・キルギスそして健康な未来へ』（はる書房、2008年）
『リウマチをなおす』（出版芸術社、2014年）

中島利博教授は、リウマチ研究における貢献、キルギス共和国での長年にわたる医療支援活動、そしてHPVワクチン研究における関与など、多岐にわたる分野で知られる医学者です。

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