中島徳蔵

中島徳蔵：教育勅語論争と東洋大学発展に貢献した教育者

中島徳蔵（1864年-1940年）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の教育者です。群馬県出身の中島は、東京帝国大学哲学科卒業後、東洋大学の前身である哲学館で西洋倫理学などを担当しました。彼の名は、主に文部省との激しい論争となった「哲学館事件」によって広く知られています。

哲学館講師時代の1900年、中島は文部省から修身教科書の起草委員に任命されました。しかし、委員会が『教育勅語』を基にした教科書作成を進める中、中島は独自の案を提示します。それは、児童の理解を容易にするため、『教育勅語』よりも智仁勇の三徳を重視するというものでした。この提案は、文部省によって『教育勅語』撤回論とみなされ、中島はわずか半年で解職されてしまいます。

1902年には、中島が担当する哲学館の卒業試験を巡り、大きな問題が発生します。これが「哲学館事件」です。この事件は、中島が哲学館を退職する結果となり、翌年には『余が哲学館事件を世に問ふ理由』と題した記事を、当時の読売新聞に掲載しました。この事件は世論を巻き込み、大きな社会問題となりました。新聞には文部省側の反論も掲載され、激しい論争が繰り広げられました。この事件で、中島は哲学館の学生や卒業生から見舞金を集められますが、当初はそれを拒否したものの、説得を受け入れ、寄付金を哲学館の図書購入に充てました。これらの寄贈図書は、現在も東洋大学附属図書館に保存されています。

1905年には、哲学館創設者である井上円了によって再び講師として招かれ、哲学館に戻ります。その後、1926年から1928年、そして1929年から1931年にかけて、東洋大学の学長を2度にわたって務めました。学長在任中は、大学令による東洋大学の昇格、新校舎や図書館の建設、神道講座の開設など、東洋大学の近代化と発展に大きく貢献しました。

教育者としての活動は多岐に渡り、東京工業学校、正則中学校、跡見女学校、共立女子職業学校などでも教鞭を執りました。

中島徳蔵の主な著書には、『明治女大学』（加藤弘之との共著）、『実践倫理講話』、『現世処世指針』、『論語の組織的研究』などがあります。これらの著作は、彼の倫理観や教育思想を深く理解する上で貴重な資料となります。

中島徳蔵は、教育勅語を巡る論争に巻き込まれながらも、教育者として揺るぎない信念を持ち続け、東洋大学の近代化に尽力した人物でした。彼の生涯と業績は、日本の近代教育史を理解する上で重要な意味を持ちます。彼が残した思想や行動は、現代の教育現場においても、多くの示唆を与え続けていると言えるでしょう。 彼の功績は、『東洋大学創立五十年史』、『中島徳蔵先生』などの文献に詳細に記されています。また、近年では中島徳蔵日記の研究も進められており、より多角的な視点から彼の生涯を考察することが可能となっています。彼の功績は、教育界に多大な影響を与え続け、現代の教育にも通じる普遍的な価値観を提示していると言えるでしょう。

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