中新田バッハホール

宮城県加美町に所在する公立の音楽専用施設、「加美町中新田文化会館」の愛称です。旧中新田町の町長を務めた本間俊太郎氏の提唱によって建設が進められ、1981年（昭和56年）2月に開館しました。地元では親しみを込めて「中新田バッハホール」と呼ばれています。

設立経緯とホールの特徴

このホールの建設計画は、当時の地方としては画期的なものでした。特に音響設計には力が入れられ、NHK総合技術研究所が協力して設計が行われています。音響性能を最大限に引き出すため、ホールの壁面や天井には緻密なデザインが施されています。さらに、様々な楽曲や楽器の響きに最適な残響時間を実現するため、特殊な残響可変壁が導入されており、演奏内容に合わせて音響特性を調整することが可能です。

ホールの中心的な存在となっているのが、壮麗なパイプオルガンです。須藤オルガン工房によって製作されたこの楽器は、設計段階からホールの音響に合わせて計画されたものであり、その存在はホールの象徴とも言えます。その他にも、世界的に評価の高いスタインウェイやヤマハのコンサートピアノ、そしてバロック音楽に欠かせないチェンバロ（ノイペルト製）といった名器が備えられており、幅広いジャンルの音楽に対応できる高い水準の設備を誇ります。

大ホールの客席数は684席（固定席643席、補助移動席38席、車椅子用3席）を有し、舞台の広さは間口14.8メートル、奥行き9.0メートル、高さ9.55メートルとなっています。充実した舞台設備と音響性能により、国内外の著名な演奏家によるコンサートも数多く開催されています。

評価と地域貢献

開館当時、都市部から離れた田園地帯にこれほど高いレベルの音楽ホールが誕生したことは大きな注目を集め、「田んぼの中のコンサートホール」としてメディアでも取り上げられました。これは、地方から優れた文化を発信する先駆的な取り組みとして高く評価され、現在に至るまでその象徴的な存在として知られています。その優れた設備と活動実績から、優良ホール100選の一つにも選定されています。

さらに、このホールを核とした地域づくりも積極的に展開されています。2014年には市民によるオーケストラ「バッハホール管弦楽団」が創設され、地元の音楽文化の振興に貢献しています。また、2017年4月には加美町内に音楽教育機関である国立音楽院宮城キャンパスが開校するなど、音楽を通じた教育・文化活動の拠点としての役割も担っています。こうしたホールを中心とした多角的な地域活性化への取り組みが高く評価され、2017年には財団法人地域創造が選定する地域創造大賞（総務大臣賞）を受賞しました。

その他の施設とアクセス

館内には、楽譜や音楽関連の専門書などが豊富に収蔵された音楽資料館が併設されており、音楽愛好家や研究者が利用できます。また、建物内部には、地元の田園風景をモチーフにしたとされる3面の美しいステンドグラス「田園詩」が配されており、訪れる人々の目を楽しませています。

アクセスとしては、ミヤコーバスの「バッハホール入口」停留所から徒歩約3分、「バッハホール前」停留所から徒歩約2分と、公共交通機関でも比較的容易に訪れることができます。自動車を利用する場合、東北自動車道の三本木PAスマートICから約16分、古川ICからは約18分で到着します。広大な無料駐車場（450台収容）も完備されており、車での来場者にも配慮されています。

過去には、ヴァイオリニストの小林武史氏が1987年に中新田バッハホール音楽院の院長に就任するなど、著名な音楽家との繋がりも持っています。

中新田バッハホールは、地方にいながらにして本格的な音楽に触れる機会を提供し続けるとともに、地域における文化振興と交流の拠点として、重要な役割を果たしています。

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