中村太八郎

中村太八郎：日本の普選運動の先駆者

中村太八郎（なかむら たはちろう、1868年3月13日 - 1935年10月17日）は、日本の普選運動（普通選挙運動）の活動家であり、その先駆者として知られています。長野県東[[筑摩郡]]山形村（現在の山形村）に生まれ、激動の時代の中で、社会変革を求めて奔走しました。

生い立ちと初期の活動

中村太八郎は、代々名主を務める豪農の家に長男として生まれました。幼少期に両親を亡くし、祖母に育てられました。儒学者である岡千仞（おか せんじん）に師事し漢学を学んだ後、専修学校（現在の専修大学）で英語、法律、経済学などを修めました。卒業後は郷里に戻り、地価修正反対運動や中山道期成同盟会に参加するなど、早くから社会運動に関わりました。

1895年には、三国干渉に反発し、遼東半島返還反対運動で演説を行い、社会問題への関心を深めます。1896年には、木下尚江らと「平等会」を組織し、翌年には片山潜らと「社会問題研究会」を設立。この研究会で普通選挙問題が議題となり、中村は選挙権の拡大を目指す運動に身を投じることになります。

普通選挙運動の開始

1897年、中村は木下尚江らとともに松本で「普通選挙期成同盟会」を結成し、「普通選挙を請願するの趣意」を発表しました。これは、日本における最初の普選宣言とされ、すべての国民に平等な選挙権を認めるべきだと訴えました。同盟会は、旧進歩党系や地主、自作農層を中心に組織され、演説会などを通じて運動を広げました。

しかし、運動初期には困難も伴いました。中村と木下は県議選を巡る恐喝詐欺の容疑で逮捕され、一時は運動が停滞を余儀なくされます。中村は有罪判決を受け服役しますが、出獄後すぐに運動を再開。松本に「普通選挙期成同盟会」の看板を掲げ、再び活動を開始しました。さらに、東京にも同盟会を発足させ、松本と東京の両輪で普選運動を推進しました。

1899年12月には、松本の同盟会で第一回大会を開催し、中村を会長に選出。第14議会に提出する請願書を議決しました。1900年1月には、1000名の署名を集めた「普通選挙請願書」を衆議院に提出。これは、日本初の普通選挙請願として歴史に名を刻みました。東京の同盟会も同様の請願書を提出し、普選運動は全国的な広がりを見せ始めます。

運動の停滞と再興

1902年の総選挙では、中村自身も立候補しましたが、落選。その後、普選同盟会は資金難や有力者の脱退により衰退します。また、政府による言論統制も厳しさを増し、社会運動への圧力が強まる中、1911年には普通選挙同盟会は解散を命じられます。

しかし、第一次世界大戦後、民主主義の思想が広まる中で、普選運動は再び活発化します。1919年、中村は実行委員長として、日本初の大規模なデモを日比谷公園で開催。5万人以上が集まり、普選運動の熱気を再び高めました。大会後、中村はすぐに松本に戻り、同盟会の再建を図り、演説会やデモを通じて運動を再開しました。1920年の総選挙では、再び立候補するものの、結果は振るわず、これを機に運動から引退します。

普通選挙法の成立と晩年

1924年の総選挙で、普通選挙に賛成する政党が多数を占め、加藤高明内閣が成立。1925年、ついに普通選挙法が成立しました。これにより、納税額による制限が撤廃され、25歳以上の男子に選挙権が与えられることになりました。この法律は、中村をはじめとする多くの運動家の長年の努力が実を結んだものです。

普通選挙法公布の際、新聞は中村太八郎を「普選の大恩人」と称え、彼の功績を称えました。晩年は、普選運動から退いたものの、その生涯をかけて日本社会の民主化に貢献した中村は、1935年に68歳で生涯を閉じました。彼の墓は多磨霊園にあります。

中村太八郎の年譜

1868年（明治元年） - 信濃国筑摩郡大池村（現山形村）に生まれる
1883年（明治16年） - 東京の岡塾に入り漢学を学ぶ
1886年（明治19年） - 専修学校（専修大学の前身）に入学
1890年（明治23年） - 地価修正反対運動を起こす
1891年（明治24年） - 中山道期成同盟会に参加
1896年（明治29年） - 木下尚江らと「平等会」を組織
1897年（明治30年） - 「社会問題研究会」の結成に参加、松本で「普通選挙期成同盟会」を結成
1897年（明治30年） - 県議選関連の容疑で逮捕、服役
1899年（明治32年） - 出獄、松本で普通選挙期成同盟会の運動を再開、東京に同盟会を発足
1900年（明治33年） - 普通選挙請願書を衆議院に提出
1902年（明治35年） - 衆議院議員総選挙に立候補するも落選
1911年（明治44年） - 普通選挙同盟会が解散を命じられる
1919年（大正8年） - 日本初の大示威運動の実行委員長を務める、普通選挙同盟会を再建
1920年（大正9年） - 衆議院総選挙に立候補するも落選
* 1935年（昭和10年） - 逝去


中村太八郎の功績は、日本の民主主義の発展に大きな足跡を残しました。彼の不屈の精神と情熱は、後世に語り継がれるべきものです。

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