普選運動

普通選挙運動とは

普通選挙運動とは、近代日本において、財産や納税額による制限をなくし、全ての成人に選挙権を認める普通選挙の実現を求めた運動です。この運動は、明治時代中期にその萌芽が見られ、大正時代に大きな盛り上がりを見せ、1925年の普通選挙法制定によって結実しました。

運動の背景

1889年に大日本帝国憲法が制定され、制限選挙による議会政治が始まりました。当初、選挙権は満25歳以上の男子で、一定額以上の直接国税を納めている者に限られていました。しかし、日清・日露戦争や第一次世界大戦を通じて、国防の義務は財産の有無に関わらず全ての成人男子に課せられるようになり、国民の政治参加に対する意識が高まりました。さらに、ロシア革命や欧米諸国における民主主義の高まりが、普通選挙実現を求める運動を後押ししました。

運動の展開

明治時代

1867年、赤松小三郎は松平春嶽らに普通選挙による議会制民主主義を提唱しました。1897年には、中村太八郎らが長野県松本市で普通選挙期成同盟会を設立し、運動が始まりました。1900年代初頭には社会主義者も運動に加わりましたが、日露戦争を機に離脱しました。

その後、何度か国会に普選法案が提出されましたが、いずれも否決されました。しかし、運動は各地に広がり、様々な団体が設立され、演説会や集会が盛んに開催されました。

大正時代

1916年、吉野作造が民本主義を提唱し、普通選挙への反政府的な色合いが和らぎました。1918年の米騒動や第一次世界大戦終結による民主主義の高まりを背景に、1919年以降、学生、労働者、中間層による普選デモが頻発しました。1920年には、東京で大規模なデモが行われ、全国的な運動へと発展しました。

しかし、1920年の総選挙で普選に反対する政党が勝利し、また戦後恐慌の影響もあり、運動は一時的に沈静化しました。それでも、普選を求める声は衰えず、その後も各政党や団体が普選法案を提出し続けました。

普通選挙法成立

1923年の関東大震災後の混乱の中、第二次山本権兵衛内閣が普選実施を決定しました。1924年には清浦奎吾内閣による超然主義内閣が成立し、それがかえって普選を求める世論をさらに高めました。

そして、1925年、ついに普通選挙法が成立しました。これにより、満25歳以上の全ての男子に選挙権が与えられることになり、日本の民主主義の発展に大きな一歩を踏み出すこととなりました。1928年には、最初の普通選挙による衆議院議員総選挙が実施されました。

運動に関わった主な団体

普通選挙期成同盟会: 全国各地で結成された、普通選挙を求める運動の中心的な団体。特に初期の運動を牽引しました。
普通選挙連合会: 複数の団体が連携して結成した組織。社会主義者や自由主義者が共闘しました。
社会主義団体: 社会主義者も普選運動に積極的に参加しました。
労働組合: 労働者の権利獲得と結びつけ、普選運動を支持しました。
学生団体: 学生も運動に積極的に参加し、デモや集会を組織しました。
婦人団体: 女性の権利獲得運動と連携し、後に女性参政権運動へと発展しました。

普通選挙運動の意義

普通選挙運動は、日本の民主主義の発展に大きく貢献しました。この運動を通じて、国民の政治参加意識が高まり、また様々な社会運動が活発化しました。その結果、日本の政治は国民の意見をより反映するものとなり、民主主義がより深く根付くこととなりました。

年譜

以下に、普通選挙運動の主な出来事を年譜形式でまとめます。

1867年: 赤松小三郎が普通選挙を提唱。
1889年: 衆議院議員選挙法公布。
1897年: 長野県松本市で普通選挙期成同盟会設立。
1899年: 東京で普通選挙期成同盟会設立。
1900年: 社会主義者が普選運動に参加。
1902年: 国会で初めて普選法案提出。
1904年-1905年: 日露戦争。社会主義者と自由主義者が普選運動を行う
1911年: 普選法案が衆議院を通過するも、貴族院で否決。
1916年: 吉野作造が民本主義を提唱。
1918年: 米騒動。
1919年: 普選デモが頻発。
1920年: 東京で大規模な普選デモ。
1921年: 原敬暗殺。
1923年: 関東大震災。
1925年: 普通選挙法成立。
1928年: 初の普通選挙による衆議院議員総選挙。

関連事項

大日本帝国憲法
衆議院議員選挙法
普通選挙
普通選挙法
大正デモクラシー
憲政擁護運動
女性参政権

参考文献

松尾尊兊『普通選挙制度成立史の研究』（岩波書店、1989年）

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