中村歌六 (3代目)

三代目 中村歌六（なかむら かろく）

三代目 中村歌六は、嘉永2年（1849年）に初代中村歌六の三男として大阪に生まれました。本名を波野時蔵といい、俳名に獅童、屋号を播磨屋としました。定紋は揚羽蝶、替紋は蔓片喰です。

幼少期から歌舞伎の世界に入り、中村米吉の名で初舞台を踏みました。その後、中村梅枝、中村時蔵と改名し、明治8年（1875年）に兄とともに東京へ進出しました。九代目市川團十郎らと共演し、東京の舞台で活躍しましたが、後に中芝居へと活動の場を移します。

明治41年（1908年）、東京明治座で『奥州安達原・袖萩祭文』の貞当と袖萩を演じ、三代目中村歌六を襲名しました。晩年は市村座で初代中村吉右衛門の脇を務める一方で、歌舞伎座では老け役として活躍し、後進の指導にもあたりました。

歌六は、上方仕込みの濃厚な芸風を持ち味としていました。立役、女形、老け役と幅広い役柄をこなし、特に丸本物には高い力量を発揮しました。主な当たり役には、『伊賀越道中双六・沼津』の平作、『夏祭浪花鑑』の三婦、『義経腰越状』の五斗兵衛、『いろは仮名四十七訓・弥作の鎌腹』の弥作、『彦山権現誓助剱・毛谷村』の六助などがあります。

その芸風は、江戸時代の古風なものであったため、必ずしも時代に合致せず、大成したとは言えませんでしたが、その演技は高く評価されていました。高橋誠一郎は、歌六の演技を「畸形的徳川文化の生み出した日本特有の歌舞伎演技」と評しています。また、七代目松本幸四郎は、若い頃に『沼津』の十兵衛役を演じた際、平作役の歌六から舞台上で的確な助言を受け、事なきを得たというエピソードを語っています。

歌六の家族構成は、妻に芝居茶屋萬屋吉右衛門の娘・小川かめがおり、子には二代目中村時蔵（養子、早世）、小川かめとの間に初代中村吉右衛門、三代目中村時蔵がいます。また、妾である山本ろくとの間には十七代目中村勘三郎がいます。現在の播磨屋系の芸は、この歌六から始まったと言えます。

昭和50年（1975年）には、東京歌舞伎座で三代目歌六の五十回忌追善興行が十七代目中村勘三郎によって行われました。

大正8年（1919年）5月17日、70歳で逝去しました。墓所は東京都台東区の西徳寺にあり、法名は「自精院釋獅洞信士」です。西徳寺には、昭和10年（1935年）に初代中村吉右衛門が寄進した水瓶があり、そこには歌六とその妻の法名が刻まれています。

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