中林竹洞

中林竹洞：幕末文人画の巨匠

中林竹洞（なかばやし ちくとう、1776-1853）は、江戸時代後期を代表する文人画家です。尾張国（現在の愛知県）に生まれ、幼い頃から絵画に才能を示しました。14歳で山田宮常に師事し、15歳には豪商・神谷天遊に見出され、その庇護の下で画技を磨きました。万松寺で李衎の「竹石図」に感銘を受けたことから「竹洞」の号を名乗るようになったと伝えられています。

19歳で独立し、画家として生計を立て始めました。恩人である神谷天遊の死後、弟子である山本梅逸と共に京都へ移り住み、そこで多くの文人墨客と交流し、寺院に伝わる古画の臨模を通して画技をさらに高めました。内田蘭著からの依頼なども受けることで生計を立て、30代後半には画家として高い評価を得るようになりました。その後40年以上にわたり、文人画壇の中心的存在として活躍しました。

竹洞は画家としてだけでなく、画論家としても大きな功績を残しています。『画道金剛杵』（1802年）や『文画誘掖』（1819年、1845年）など、数多くの画論や画譜を著し、その著作数は30種類以上に及びます。これらの著作において、竹洞は中国南宗画の臨模を推奨し、文人画における精神性の重要性を強調しました。また、室町時代以降の画人を評価し、池大雅を最高位に位置づけるなど、独自の画史観を示しています。

竹洞の画風は、清代の文人画の伝統を踏まえつつ、独自の境地を開拓したものです。繊細で緻密な描写、そして清逸で深遠な趣きは、幕末日本文人画の典型として高く評価されています。一方で、構図や趣向がパターン化している面もあり、多作であったことから作品に類似性が見られるという指摘もあります。晩年になると、筆数が減り、より個人的な心情を表現した作品が増えていったとされています。

竹洞は多くの弟子を育成し、その影響は後世の文人画に大きな足跡を残しました。主な弟子には大倉笠山、今大路悠山、勾田台嶺、斎藤畸庵、高橋李村、玉井鵞溪、梁川紅蘭らがいます。長男の中林竹渓、三女の中林清淑も南画家として活躍しました。

竹洞の墓は京都市の真正極楽寺（真如堂）にあります。墓碑には「竹洞隠士」と刻まれています。その墓と住居は、その後住居を譲り受けた近隣住民によって大切に守られてきました。住居に掲げられていた「竹洞庵」の表札は、平成まで現存していたそうです。

中林竹洞は、画家としての卓越した技量と、画論家としての深い洞察によって、幕末の文人画界に大きな影響を与えた人物と言えるでしょう。彼の作品と画論は、現代においても高く評価されており、日本の文人画史における重要な位置を占めています。彼の作品を通して、当時の文人たちの精神世界や美意識に触れることができるのです。現在も彼の作品は、美術館や博物館などで鑑賞することができます。彼の生涯と作品は、日本の美術史を考える上で欠かすことのできない重要な要素と言えるでしょう。

主な作品

『画道金剛杵』 (1802年)
『文画誘掖』 (1819年、1845年)
『竹洞画論』
『竹洞画稿』 (文化9年)

参考文献

日本浮世絵協会編 『原色浮世絵大百科事典』第2巻
大槻幹郎『文人画家の譜』
文人画情報誌『読画塾』第５号 特集 中林竹洞の世界
山田伸彦 「資料紹介 中林竹洞と清叔の所用印について」『名古屋市博物館研究紀要』
稲墻朋子 「中林竹洞「武陵桃源図」（絶筆）―竹洞晩年の傑作」『聚美』
許永晝・森田聖子・小林詔子・市川尚編『笑社論集』
名古屋市博物館編集・発行 『南画』
『江戸時代尾張の絵画 巨匠 中林竹洞』

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