中根貞彦

中根貞彦

中根貞彦（なかね さだひこ、1878年2月4日 - 1964年1月24日）は、日本の実業家、政治家、そして歌人として多方面で活躍した人物です。旧姓は片切といい、号を九峯と称しました。三和銀行の初代頭取を務めたほか、貴族院勅選議員にも選ばれるなど、その経歴は多岐にわたります。

生い立ちと学歴

中根貞彦は、大分県海部郡二王座村（現在の臼杵市）で、大分士族・片切八三郎の三男として生まれました。幼くして両親と死別するという不幸に見舞われましたが、その後、佐伯の中根祚胤（百九銀行頭取）の養子となりました。学業においては、1901年に第五高等学校大学予科第一部（法科）を卒業、1905年には東京帝国大学法科大学政治学科を卒業という輝かしい経歴を持ちます。

日本銀行から三和銀行へ

大学卒業後、中根貞彦は日本銀行に入行し、ロンドン代理店監督役、国庫局長、大阪支店長、理事などを歴任しました。1933年には、三十四銀行、山口銀行、鴻池銀行の合併により三和銀行が創立されると、初代頭取に就任し、1945年までその重責を担いました。この頭取選任の際、土方久徴が中根を総裁候補として推薦したという逸話も残っています。その他、大阪手形交換所委員長、三和信託社長、全国金融統制会評議員、日本銀行参与などの要職も歴任しました。

貴族院議員と公職追放

1946年3月22日、中根貞彦は貴族院勅選議員に任じられ、財閥解体を担当する持株会社整理委員会委員長に内定しました。しかし、戦時中に出版した歌集『膺懲』が問題視され、公職追放の対象となり、同年6月28日に貴族院議員を辞職せざるを得なくなりました。

戦後の活動

1951年に公職追放が解除された後、中根貞彦は三和銀行相談役、ダイハツ工業監査役、房総油脂工業会長、髙島屋顧問、関西大分県人会長などを務め、その豊富な経験と知識を活かし、様々な分野で活躍しました。

人物像と趣味

中根貞彦は、和歌をこよなく愛した人物としても知られています。斎藤茂吉に師事し、アララギ派の歌人としてもその名を知られていました。その歌才は、多くの人々に感銘を与え、彼の作品は今もなお読み継がれています。

親族

中根貞彦の親族には、実父に片切八三郎、養父に中根祚胤がいます。妻はキクと元胤で、子供は三男、長女、二女がいます。また、相婿には小野梧弌（野坂参三の兄）がいます。これらの親族もまた、様々な分野で活躍しました。

著作

中根貞彦は、歌集や旅行記など、多くの著作を残しました。主な著作として、『翠菊 : 北海道周遊吟 : 彦手記』(1939年)、『消えゆくともし火』(1939年)、『膺懲 : 歌集』(1942年)、『中根貞彦歌集』(1986年)などがあります。また、『唐詩歌訳』(1963年)は、中国の詩を訳したものであり、彼の幅広い知識と教養を示すものです。


中根貞彦は、激動の時代を生き抜き、実業界、政界、文壇でその才能を発揮した、まさに多才な人物であったと言えるでしょう。彼の残した足跡は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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