中華民国国歌

中華民国の国歌「三民主義歌」：歴史、歌詞、そして論争

中華民国の国歌は、中国国民党の党歌でもある「三民主義歌」として知られています。歌詞の冒頭から「三民主義」と始まることから、この別名でも広く呼ばれています。本稿では、この国歌の歴史、歌詞、そして「吾党」をめぐる長年の論争について詳細に解説します。

誕生から制定まで：曲折の歴史

中華民国の国歌は、建国当初から幾多の変遷を経て現在の姿に至っています。1912年の建国時には「五族共和歌」が採用されましたが、その後「卿雲歌」が制定され、袁世凱政権下ではさらに別の国歌が用いられるなど、初期の段階では国歌の定着は困難でした。

転機となったのは1924年、孫文による黄埔軍官学校の開校式訓示です。この訓示は、胡漢民らによって起草され、後に「三民主義歌」の歌詞として採用されました。程懋筠が作曲した旋律と共に、1929年に国民党の党歌として制定され、1930年には暫定的な国歌として使用が始まり、1937年に正式な国歌として制定されました。この過程には、国民党党歌の暫定的な国歌使用に対する国民からの批判や、正式な国歌制定に向けた様々な試行錯誤がありました。国歌歌詞の公募は何度か行われましたが、結局は「黄埔軍校訓詞」が国歌として採用されることとなりました。

歌詞と解釈：国民の統合と「吾党」問題

「三民主義歌」の歌詞は、孫文の訓示に基づいており、中華民国の建国理念である三民主義を謳っています。しかし、歌詞の中に含まれる「吾党所宗」というフレーズが、長年にわたって議論の的となっています。これは文字通りには「我々の党の目指すところ」という意味ですが、「吾党」を国民党に限定的に解釈するのか、あるいはより広く国民全体を指すのかという解釈の相違が、議論の根底にあります。

国民党は、「吾党」を国民全体を包含する意味で用いていると主張してきました。一方で、反対意見は「吾党」が国民党を指しており、国歌として不適切であると批判してきました。この論争は、1950年代以降、政治家の発言や学術論文、さらには国歌斉唱時の出来事を通して、現在に至るまで継続されています。特に、民進党政権下では、国歌斉唱時に「吾党所宗」の部分を歌わないケースも見られました。しかし、蔡英文総統は就任式典や国慶節において全歌詞を斉唱し、この問題に対する新たな解釈を示唆しています。

使用状況：台湾、中国大陸、そして国際社会

台湾では、1945年の台湾光復以降、国歌として使用されてきました。国旗掲揚式や公共の場で演奏され、かつては国歌斉唱時の起立義務や映画上映前の国歌上映が義務付けられていましたが、近年はこれらの義務付けは廃止されています。

一方、中華人民共和国では、中華民国を歴史上の国家とみなしているため、公の場で「三民主義歌」が演奏されることはありません。中国政府は、台湾に関する報道において「中華民国」という用語の使用を避け、国歌の使用も禁止しています。

国際社会においては、中華民国国歌が演奏される場面も存在します。しかし、中華人民共和国との関係を考慮する必要性から、誤って国歌が演奏される事例や、その後の抗議なども発生しています。

まとめ

中華民国の国歌「三民主義歌」は、その歴史、歌詞、そして「吾党」をめぐる論争を通じて、中華民国という国家の複雑な歴史と政治状況を象徴しています。この国歌は、単なる音楽作品ではなく、歴史的、政治的な意味合いを深く含んだ存在であり、今後も様々な解釈と議論が続けられていくでしょう。 この国歌を取り巻く状況は、台湾と中国大陸の関係、そして国際社会における中華民国の地位を理解する上で重要な鍵となります。 将来、この国歌がどのような意味を持ち続けるのか、そしてどのように扱われていくのか、注目に値します。

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